「「誕生日プレゼント?」」
「う、うん、そう。二人はさ、横井くんになにかあげる?」
次の日の昼休み、横井が委員会に行っている隙に早速瀬野くんと長谷川に誕生日プレゼントのことを相談していた。
俺の質問に、長谷川はさも当然というようにコクリと頷きながらミートボールを口に入れる。
「まあ、毎年渡してるからな、普通に今年も渡す。俺はもう用意したけど、彰人は?」
「俺は何個か候補絞ってて、今度の土日に実物見て決めるつもり」
やっぱり、二人も誕生日プレゼントを準備しているそうだ。ならますます俺もあげたい。
「その……誕生日プレゼントって、何渡せばいいのかな?」
「ん? そんなの、原田がみなとに渡したいもん渡せばいいんだよ」
「そ、それが、俺誰かに誕生日プレゼントとかあげたことなくて、えっと……相場がわからないといいますか」
今日も学校に来る間ずっとスマホとにらめっこして考えていたが、本当に何も思いつかなかった。このままだと一周回っておもしろグッズを買ってしまいそうだ。それだけはまずい。
水を一口飲んではぁ、とため息をつくと、長谷川がポンッと俺の肩に手を置いた。
「別に、何あげてもみなとならめっちゃ喜ぶと思うぞ。『原田が誕プレくれた〜!』って」
「そうそう、そんなに気難しく考えなくて良いと思うよ」
瀬野くんもそう言ってくれるが、俺にとっては重要で難しい問題なのだ。何をあげても横井なら喜んでくれることが分かっているからこそ、下手なものはあげられない。
何も言わず黙りこくっている俺を見て、長谷川が名案を思いついたようにパチンと手を鳴らし俺と瀬野くんを指差した。
「じゃあさ、彰人と一緒に買いに行けばいいじゃん! 土日見に行くんだろ?」
「えっ」
「俺はいいけど、候補を全部見に行くから原田を連れ回しちゃうかも。大丈夫?」
「だ、大丈夫。というか、参考にしたいから一緒に行きたい……かも」
瀬野くんの候補を見たら少しはイメージを掴めそうだし、その場で相談もできる。かなりありがたい。
俺が頷くと、瀬野くんは目尻を下げて微笑んだ。
「じゃあまた連絡するから、ちゃんと予定合わせようか」
「う、うん!」
——良かった。瀬野くんが一緒なら、なんとかプレゼント決まるかも。
俺が安堵の息を吐くと、なぜか長谷川がニヤニヤしながらこっちを眺めていた。
「な、何?」
「いや、何にも〜?」
そのわざとらしい言い方に、俺でも嘘だとすぐに分かった。
問いただそうとしたその時、ガチャリと屋上の扉が開いた。委員会を終わらせた横井が弁当片手に、肩で息をしながら立っている。よほど急いで来たのだろう。
「はぁ……おまたせ、何の話してたの?」
もはや定位置となった長谷川の横にストンと座り、弁当を広げる。長谷川はその様子を横目で見ながら、さっきと同じように頬を上げて横井に擦り寄った。
「みなとお疲れさん。今な、彰人と原田のデートプラン考えてた」
「わお、それはそれは……」
「で、でででデート!?」
横井は目を見開き口元に手を当て、俺と瀬野くんをキョロキョロと見比べる。そして、へにゃりとどこか嬉しそうに笑った。
「デートか〜、楽しんできてね!」
「ふ、二人で出かけるだけで、デートじゃ――」
ない、と俺が言う前に長谷川があっけらかんとした顔で遮る。
「二人で出かけるなら、それはもうデートだろ」
「うんうん」
「え!? そ、そうなの?」
横井まで真顔で頷くものだから、俺が間違っているように思える。いやいや、デートっていうのは、恋人同士が仲良く出かけることであって、俺と瀬野くんは違うだろう。
もう俺の仲間は瀬野くんしかいない。
瀬野くんに助けを求めようと視線を移すと、なぜか彼も真剣な眼差しで俺のことを見つめていた。その視線の熱さに思わずグッと喉が鳴る。
「原田、俺とデート行かない?」
「え!? えっと……」
――瀬野くんもそっち側かい!
まさかの裏切りに驚いて固まっていると、瀬野くんが俺の手から箸と弁当を掻っ攫い少し離れたところに置いた。一瞬の出来事に拒むこともできず目で追っていると、空いた両手を瀬野くんにギュッと包まれる。
「行ってくれる?」
「う、うん」
「やった!」
さっきと同じ熱の籠もった目で見つめられて、気づいたら俺は素直に頷いて承諾していた。
――いやまあ、さっき一緒に行こうって話してたし……。デートは置いといて。
脳内で言い訳を垂れながらそっと視線を横にずらすと、長谷川と横井がなぜかハイタッチして喜んでいる姿が目に入った。いやいや、二人は一体何にそんな喜んでるんだ?
思わずじーっと見つめていると、急に身体にドンッと重みがぶつかってきた。瀬野くんが俺を急に抱きしめたのだ。
びっくりしてされるがままになっていると、瀬野くんのご機嫌な声が降ってくる。
「原田、デートプラン考えよ」
「ぷ、プランって」
だって別に遊びに行くわけじゃなくて、横井の誕生日プレゼントを選びに行くだけなのに。俺の困惑した様子を感じ取ったのか、瀬野くんが俺の耳元に口を寄せ小さく囁いた。
「せっかく二人で出かけるんだからさ、ちょっとくらい遊ぼ?」
確かに、ちょっとくらい遊んでもいいかもしれない。というか、せっかく出かけるのに遊ばないのは勿体ないか。
「うん、そうだね」
「よし、じゃあ行きたいところとか考えといて」
行きたいところ……俺が友達と出かけたいところってどこだろう。
脳内には今まで友達と遊んでみたかった場所が走馬灯のようにザーッと流れていった。
どうしよう、更に出かけるのが楽しみになってきた。
「デートプラン、ちゃんと練ろうね」
瀬野くんの大きな手が俺の頭をくしゃりと撫でる。
——デート、デートかぁ……。
目的は横井の誕プレ探しなのに、瀬野くんと二人で出かけることの方が楽しみなのはおかしいのかもしれない。
でも、なぜか湧き出る感情と勝手に上がる口角を抑えることができなくて、それを隠そうと瀬野くんの肩にそっと顔をうずめた。



