駄菓子より甘い瀬野くん

 瀬野くん・長谷川・横井による赤点回避勉強会の成果で無事に中間テストは赤点なしで乗り切り、今度は期末テストが迫っていたある日。
 晩ご飯とお風呂を済ませ、寝る前に今日の復習をしていると、机の上に置いていたスマホがブーッと震えた。見ると、画面上に『横井くん』の文字が表示されている。

 ——横井くんから、珍しいな。

 一緒にお昼を食べるようになってからしばらくして、四人のメールグループが出来た。その方が連絡が楽だからと、長谷川がパパっと作って招待してくれたのだ。グループに入るのなんて初めてで、最初の方はとんでもなく浮かれていたのを思い出す。
 それからは基本グループの方で連絡していたので、こうして個人でメールが来たのはだいぶ久しぶりだ。
 少しドキドキしながらメールアプリをタップする。

『明日昼休みに委員会があるから、お昼先に食べてて! 彰人と拓実には帰りに話したんだけど、原田には伝えそびれたから』

 四人の中で横井だけ委員会に入っていたことを思い出し、すぐに『わかった、頑張ってね』と返信した。わざわざ送ってくれなくてもいいのにと思ったのだが、わざわざ送ってくれたことが嬉しい。
 気分良くスマホを閉じようとした時、横井のメールのアイコンが変わっていることに気づいた。白と黒のフワフワの猫ちゃんで、欠伸をしている瞬間を撮ったものらしい。
「かわいい〜」
 ——そういえば横井くん、猫を飼ってるってこの前言ってたな。
 もっと大きな画面で見たくてアイコンをタップすると、横井のアカウントページが表示される。しかし、俺は猫ちゃんじゃなく、その下に表示されたとある数字に目が釘付けになった。
 
「六月、十二日……?」
 
『誕生日』と書かれた欄の下に『6月12日』と書かれている。俺は焦りながら慌ててスマホの上に表示されている今日の日付を確認した。
「六月三日、ということは……九日後!?」
 まずい、全く知らなかった! いや、そもそも普通に会話してて誕生日の話題になんてならないし……。
 というか、

「誕生日プレゼント、用意したほうがいいよな」

 横井がどう思っているかは置いといて、俺はその……横井のことを友達だと思っている。せっかくならちゃんとお祝いしたい。それに中間テストの前は掛かりっきりで数学を教えてもらったし、そのお礼という意味でもなにか渡したいと思ったのだ。
「とりあえず、今度の土日に見に行くとして……」
 スマホで候補を探そうと検索欄を開く、ところでピタリと指が止まった。
「…………友達の誕生日って、何渡せばいいんだ?」
 誕生日プレゼントをあげるような友達なんて今までいなかったわけで、だから何をあげればいいのかが本当に分からない。
「ば、バックとか? いや、流石に重すぎ? でももう高校生だし、安すぎるのも……。うーん」

 悩みに悩んだ結果、俺はとりあえず『高校生 友達 誕生日プレゼント』で検索をかけ、一番上に出てきた記事をタップした。

「――おもしろグッズ?」

 男子高校生に一番人気の誕生日プレゼントはおもしろグッズだそうだ。記事にはマッチョのマグカップやら、一発ギャグが印刷されたTシャツなどの画像が並んでいる。
「ほ、本当にこれが人気なのか?」
 まあ、これが長年の友達――それこそ瀬野くんや長谷川が渡していたら面白いかもしれない。が、俺と横井はまだ出会って三ヶ月で、しかも初めて渡すプレゼントなのだ。最初にふざけるのは、少し違う気がする。

 それに、横井がこのおもしろグッズを使っている姿を想像できない。いや、横井のことだから案外面白がって喜んでくれそうな感じはするが、イメージが違うのだ。もっとこう、シンプルでどこでも使えるものがいい。
 そのまま下にスクロールしていき、一番最後に書かれていた言葉にそっと目を落とした。

『最後に一番大切なのは気持ち! 相手が好きそうなものや、自分があげたいと思うものを渡すのが一番ですよ!』
 
「……気持ちか〜。横井くんの好きそうなもの、ってなんだろう?」
 クラスが違うので横井の持ち物を見る機会がそもそも少ない。
「でも、筆箱とかは上質そうなの使ってたよな」
 勉強会の時に使っていた筆箱は艶のある革製で、見るからにお高いとわかるものだった。
 そもそも、横井は風丘の内部生だ。バイト代が少しあるとはいえ、お金持ちの彼が持っていても違和感がないものを今の俺が買えるかと言われれば、答えは『ノー』だ。
 
「うーん……どうしよう」
 スマホを握りしめたままベッドにダイブする。ボスリと柔らかな枕に顔をうずめたままグルグル考えるが、結局何も思いつかず。しばらくすると苦しくなったので、ぷはっと枕から顔を上げた。
 そのままコロンと仰向けになると、窓の外から月の光だけが薄っすらと突き抜けてくる。それをぼーっと眺めているとだんだんと眠たくなってきた。俺はスマホを閉じてベッドにちゃんと横になる。

 明日は丁度良く横井が委員会で遅れるそうなので、その隙に瀬野くんと長谷川に相談しよう。うん、それがいい。

 俺は薄れていく意識のなかで、ふとあることを思った。
 ——そういえば、瀬野くんと長谷川くんの誕生日はいつなんだろう……。
 横井のようにメールのアカウントを確認するすればわかるかもしれないが、襲ってくる睡魔に勝てなかった。確認する間もなく、俺は一瞬で眠りについた。