たった一時間教室に籠もっていただけなのに、外の空気がうんと美味しく感じる。大きく息を吸って、両手を上に伸ばす。
「にしても、外はあっちーな!」
長谷川は顔をしかめながら手でパタパタと仰いでいた。天からはギンギンと輝く太陽の光がこれでもかと降り注いでいる。ひと言で言えば、めちゃくちゃ暑い。
「みんなよくやるよね。見てるだけで暑いよ」
横井の視線の先を見ると、グラウンドで汗を流しながら部活動に励んでいる野球部やサッカー部の姿があった。その中にもちろん瀬野くんもいる。丁度試合形式のゲーム中だったらしく、コートの中にいた彼を今度はすぐに見つけることができた。
海のように鮮やかな青の練習着に身を包み、太陽に照らされた美しい金髪を揺らしながらグラウンドを走り抜けていく。
チーム分けの関係か、ゼッケンを着た生徒と練習着のままの生徒がいた。
「彰人っ!」
「おう!」
瀬野くんは練習着チームらしく、メンバーからのパスを右足でトンと華麗に受け止めた。
「行かせねーぞ」
「彰人を止めろ!」
ボールを蹴りながらゴールに向かって走っていく瀬野くんの前にゼッケンチームが立ち塞がる。それを、瀬野くんはいとも簡単に切り抜けてしまった。
「うわぁ……」
まるでダンスを踊っているかのように、軽やかな足さばきで相手を翻弄する。時にはフェイントで、時にはターンで、次々とゼッケンチームを追い抜いていき、気づけばゴール目前のところまで来ていた。
サッカーのことは全く詳しくないが、瀬野くんがとてつもなく上手なことは素人目にも一目瞭然だった。
ゴールキーパーが両手を広げて待ち構えている。瀬野くんは落ち着いて前を見据え、右足を振り上げた。
ビュンっと風を切り裂くように、ボールが一直線にゴールへ入っていく。
「わっ……!」
ピーッと監督らしき男性が笛を吹く。どうやらゲームが終わったらしい。
それと同時に周りからキャーッという歓声が響いた。びっくりして周りを見ると、沢山の女子生徒がグラウンドの外に集まっている。様子を見る限り、ほとんどの生徒が瀬野くんお目当てらしかった。
——ゲーム中は瀬野くんばっかり見てたから、他に生徒がいたの全く気付かなかった……。
「やっぱり彰人は上手だね」
「どうだ原田、彰人かっこよかったか?」
長谷川が俺の肩に左腕を回し、ニヤリとからかうように聞いてくる。
「——かっこよかった!! ……あ」
俺はそれに、食い気味に答えてしまった。二人の驚きで見開かれた瞳に見つめられて、首元から顔がカーっと熱くなっていく。
「いや、これはその……」
「……そっか〜、かっこよかったかー!」
「これは彰人も大喜びだね」
「いや、瀬野くんはカッコいいとか、言われ慣れてる、だろうし……」
「いーや! 原田が言ったら大喜びするぞ〜アイツ」
「言ってあげてくれる?」
「…………へっ!?」
——それは、『直接本人に言ってあげて』という意味だろうか。いやいやいや、恥ずかしすぎるだろっ!
「そ、それは……」
「おーい、彰人ー!」
「……拓実? どしたー?」
「ちょっ!?」
長谷川が右腕を振りながら大声で瀬野くんを呼ぶ。ゲームも終わり丁度休憩中だったらしく、瀬野くんは不思議そうに振り向きこちらを捉えると、俺らの方に走ってくる。
——待って待って待って……!?
一歩後ずさるが、それを拒むように肩に回された長谷川の腕に力が込められる。
「長谷川くん……!」
「だいじょーぶだから、な?」
——俺は全く大丈夫じゃないです!!
俺を安心させるようにニッコリイケメンスマイルで見下されるが、俺の内心はそんなのお構いなしでほぼパニック状態だ。
なんというか、パッと称賛が口から出るのと、本人を前にして褒めるのは違うと思う。主に恥ずかしさが。
そんなこんやでアワアワしているうちに、瀬野くんがこちらにやってきてしまった。
「原田!」
「せ、瀬野くん……」
「……俺らは無視かよ」
「彰人ー、僕らもいるよ」
「ちゃんと気づいてるよ」
「なら無視すんなよッ!」
首元にタオルを巻き片手に水筒を持って現れた瀬野くんは、汗をかいているはずなのにどこか爽やかだった。清涼飲料のCMとか似合いそうだ。
瀬野くんはチラリと俺の肩を見ると、そのまま横にいる長谷川に目を向けた。ゆっくりと近づき、俺の肩に回っている長谷川の右腕を軽くベシっと叩く。長谷川は特に痛がる様子も嫌がる様子も見せず、なんなら分かっていたかのように「はいはい」と軽い調子で俺から離れた。
瀬野くんは長谷川が後ろにいる横井の隣に並んだのを確認してから、少しかがんで俺にそっと目を合わせてきた。
俺はそれに、なぜかドキッとしてしまった。なんでかは分からないが、心臓がドクンとこれまでにないほど大きく動いたのだ。
——な、なんで……。緊張してるのか、俺?
さっき熱くなった顔が、更に熱を持ったのを感じる。
「原田どした? 大丈夫か?」
「へっ!? な、何が……?」
「顔真っ赤だぞ、ほれ」
「ひッ! 冷たっ!?」
ほれ、と瀬野くんが手に持っていた水筒を俺の頬に押し当ててきた。ステンレスの冷たい感覚が頬の熱をスーッと冷やしていく。
「外暑いんだからさ、熱中症とか気をつけないとダメだぞ」
「それは、瀬野くんもでしょ……」
というか、俺よりこんな暑い中走り回っていた瀬野くんのほうが危ないと思う。が、瀬野くんはそんな俺を見てフッと余裕そうに笑った。
「俺は気をつけてるから大丈夫なの。お顔真っ赤な原田は黙ってなさい」
「う……」
これは暑いせいじゃなくて……いや暑いせいもあるんだけど。流石に本当の理由を話すのはだいぶ気が引けるので、されるがままになってしまっている。
「そういえば、勉強はどんな感じ?」
「えっと……横井くんに必勝法、教えてもらった」
「必勝法? なにそれ……。まあ良かったじゃん、あとで俺にも教えて」
「瀬野くんは別に……数学できるじゃん」
「それはそれ、これはこれ」
「なにそれ」
思わず笑みをこぼすと、瀬野くんもなんだか嬉しそうに笑った。
「にしても、外はあっちーな!」
長谷川は顔をしかめながら手でパタパタと仰いでいた。天からはギンギンと輝く太陽の光がこれでもかと降り注いでいる。ひと言で言えば、めちゃくちゃ暑い。
「みんなよくやるよね。見てるだけで暑いよ」
横井の視線の先を見ると、グラウンドで汗を流しながら部活動に励んでいる野球部やサッカー部の姿があった。その中にもちろん瀬野くんもいる。丁度試合形式のゲーム中だったらしく、コートの中にいた彼を今度はすぐに見つけることができた。
海のように鮮やかな青の練習着に身を包み、太陽に照らされた美しい金髪を揺らしながらグラウンドを走り抜けていく。
チーム分けの関係か、ゼッケンを着た生徒と練習着のままの生徒がいた。
「彰人っ!」
「おう!」
瀬野くんは練習着チームらしく、メンバーからのパスを右足でトンと華麗に受け止めた。
「行かせねーぞ」
「彰人を止めろ!」
ボールを蹴りながらゴールに向かって走っていく瀬野くんの前にゼッケンチームが立ち塞がる。それを、瀬野くんはいとも簡単に切り抜けてしまった。
「うわぁ……」
まるでダンスを踊っているかのように、軽やかな足さばきで相手を翻弄する。時にはフェイントで、時にはターンで、次々とゼッケンチームを追い抜いていき、気づけばゴール目前のところまで来ていた。
サッカーのことは全く詳しくないが、瀬野くんがとてつもなく上手なことは素人目にも一目瞭然だった。
ゴールキーパーが両手を広げて待ち構えている。瀬野くんは落ち着いて前を見据え、右足を振り上げた。
ビュンっと風を切り裂くように、ボールが一直線にゴールへ入っていく。
「わっ……!」
ピーッと監督らしき男性が笛を吹く。どうやらゲームが終わったらしい。
それと同時に周りからキャーッという歓声が響いた。びっくりして周りを見ると、沢山の女子生徒がグラウンドの外に集まっている。様子を見る限り、ほとんどの生徒が瀬野くんお目当てらしかった。
——ゲーム中は瀬野くんばっかり見てたから、他に生徒がいたの全く気付かなかった……。
「やっぱり彰人は上手だね」
「どうだ原田、彰人かっこよかったか?」
長谷川が俺の肩に左腕を回し、ニヤリとからかうように聞いてくる。
「——かっこよかった!! ……あ」
俺はそれに、食い気味に答えてしまった。二人の驚きで見開かれた瞳に見つめられて、首元から顔がカーっと熱くなっていく。
「いや、これはその……」
「……そっか〜、かっこよかったかー!」
「これは彰人も大喜びだね」
「いや、瀬野くんはカッコいいとか、言われ慣れてる、だろうし……」
「いーや! 原田が言ったら大喜びするぞ〜アイツ」
「言ってあげてくれる?」
「…………へっ!?」
——それは、『直接本人に言ってあげて』という意味だろうか。いやいやいや、恥ずかしすぎるだろっ!
「そ、それは……」
「おーい、彰人ー!」
「……拓実? どしたー?」
「ちょっ!?」
長谷川が右腕を振りながら大声で瀬野くんを呼ぶ。ゲームも終わり丁度休憩中だったらしく、瀬野くんは不思議そうに振り向きこちらを捉えると、俺らの方に走ってくる。
——待って待って待って……!?
一歩後ずさるが、それを拒むように肩に回された長谷川の腕に力が込められる。
「長谷川くん……!」
「だいじょーぶだから、な?」
——俺は全く大丈夫じゃないです!!
俺を安心させるようにニッコリイケメンスマイルで見下されるが、俺の内心はそんなのお構いなしでほぼパニック状態だ。
なんというか、パッと称賛が口から出るのと、本人を前にして褒めるのは違うと思う。主に恥ずかしさが。
そんなこんやでアワアワしているうちに、瀬野くんがこちらにやってきてしまった。
「原田!」
「せ、瀬野くん……」
「……俺らは無視かよ」
「彰人ー、僕らもいるよ」
「ちゃんと気づいてるよ」
「なら無視すんなよッ!」
首元にタオルを巻き片手に水筒を持って現れた瀬野くんは、汗をかいているはずなのにどこか爽やかだった。清涼飲料のCMとか似合いそうだ。
瀬野くんはチラリと俺の肩を見ると、そのまま横にいる長谷川に目を向けた。ゆっくりと近づき、俺の肩に回っている長谷川の右腕を軽くベシっと叩く。長谷川は特に痛がる様子も嫌がる様子も見せず、なんなら分かっていたかのように「はいはい」と軽い調子で俺から離れた。
瀬野くんは長谷川が後ろにいる横井の隣に並んだのを確認してから、少しかがんで俺にそっと目を合わせてきた。
俺はそれに、なぜかドキッとしてしまった。なんでかは分からないが、心臓がドクンとこれまでにないほど大きく動いたのだ。
——な、なんで……。緊張してるのか、俺?
さっき熱くなった顔が、更に熱を持ったのを感じる。
「原田どした? 大丈夫か?」
「へっ!? な、何が……?」
「顔真っ赤だぞ、ほれ」
「ひッ! 冷たっ!?」
ほれ、と瀬野くんが手に持っていた水筒を俺の頬に押し当ててきた。ステンレスの冷たい感覚が頬の熱をスーッと冷やしていく。
「外暑いんだからさ、熱中症とか気をつけないとダメだぞ」
「それは、瀬野くんもでしょ……」
というか、俺よりこんな暑い中走り回っていた瀬野くんのほうが危ないと思う。が、瀬野くんはそんな俺を見てフッと余裕そうに笑った。
「俺は気をつけてるから大丈夫なの。お顔真っ赤な原田は黙ってなさい」
「う……」
これは暑いせいじゃなくて……いや暑いせいもあるんだけど。流石に本当の理由を話すのはだいぶ気が引けるので、されるがままになってしまっている。
「そういえば、勉強はどんな感じ?」
「えっと……横井くんに必勝法、教えてもらった」
「必勝法? なにそれ……。まあ良かったじゃん、あとで俺にも教えて」
「瀬野くんは別に……数学できるじゃん」
「それはそれ、これはこれ」
「なにそれ」
思わず笑みをこぼすと、瀬野くんもなんだか嬉しそうに笑った。



