あれから一夜明け今日の放課後、早速勉強会をすることになった。
帰るのが遅くなるかもしれないので両親に事情を話したら「学生は勉強が本分だから」と、思っていたよりあっさり許可が下りたのだ。
テストまで残り三週間、テストが終わるまで『ゆうやけ』でのバイトもお休みすることになった。
おばあちゃんが一人になるから心配だったけれど、
「もともと一人でやってたから大丈夫よ、お手伝いしてくれる人もいるし。優輝は勉強に専念なさい」と言ってくれたので、有難く休みをいただいた。
——こうなったら本気で赤点回避しないと、皆に顔向けできない。
机の上に用意して置いた数学ワークと筆箱を胸に抱え、カバンを肩にかけて席を立つ。
「原田、今から二人のとこ行くのか?」
「うん」
カバンと大きな巾着を二つ——練習着とスパイクが入ってるらしい——を持った瀬野くんが俺の机に片手を乗せて体重をかけた。
ただ立っているだけなのに、まるで雑誌の表紙みたいにとても絵になる。周りの女子たちのキャーッという叫び声が聞こえた。
「部活までちょっと時間あるから、途中まで一緒に行こ」
「うん、心強い。……お、俺、五組の前通ったことすらない、から」
「あー、結構奥の方だもんな。用事ないと行かないか」
「うん。……うん?」
ポンポンと頭を触られる感覚がした。
頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くす。
——え? なんで俺、瀬野くんに頭撫でられて……。
「あ、あの……」
「ん?」
「あああ、あの……」
「うん、どした?」
焦りすぎて、瀬野くんの前では久しぶりにこんなに吃ってしまう。床を見つめて、ゆっくり深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
バクバクと高鳴っていた心臓が少し落ち着いたのを自覚して瀬野くんを見るために顔を上げると、彼は未だに俺の頭を撫でながらニッコリと笑っていた。
——瀬野くん、なんでこんなに楽しそうなんだ……?
「あの、手……」
「ああ、ごめんな。寝癖ついてたから」
「寝癖!?」
朝ちゃんと鏡で確認してきたはずなのだが、見逃していたのだろうか。というか、朝からこの時間まで寝癖をつけっぱなしにしていたってことか!?
——まって、恥ずかしすぎる……!
「ど、どこ?」
「もう治したから大丈夫だよ」
「あ、ありがとうっ……!」
思わず大きな声が出てしまった。瀬野くんが驚いたように俺の頭から手を離す。その時ちょうど俺の大声に驚いたクラスメイトがこちらを振り返った。
——せ、セーフ……。見られなかった……よな?
焦って周りを見るが、男子生徒は不思議そうにこちらを眺めているだけだった。よしよし、大丈夫そうだ。さすがにさっきのは恥ずかしいから見られたくない。
安心して横を向くと、女子生徒数人とバッチリ目が合う。
——……そういえば、さっき瀬野くんを見てキャアキャア言ってたよな。ん?あのまま見られてたってことは、ない、よな……。ないよな!?
焦りで頭が真っ白になる。
恥ずかしさに思わず目を逸らそうとしたが、女子生徒達の驚きの混じった目の圧に視線を外すこともできず、意図せずお互いジッと見つめ合うような構図になる。
――ど、どうしよう……。
俺から何か話せるわけもなく、焦りだけが蓄積されていく。
すると、急に視界がふっと暗くなった。
真っ暗な視界の中、ところどころに光が差し込んでいる。それが指の隙間だと気づいたのは少しあとだった。
「えっと……え?」
誰がこんなことを……いや、瀬野くんしかいないか。他にこんなことをしてくるような仲の良いクラスメイトはいない。
しかし、なぜ急に目を隠されたのかが分からなかった。振り払おうにも手はワークと筆箱で塞がっているし、視界を奪われているからそれを机に置くこともできない。どうにもできずただ固まっていると、耳元から瀬野くんのささやく声が聞こえた。
「原田、そんなに女子をガン見したら駄目だよ」
「あっ……」
——たしかに、失礼だったかも!?
女子と話した経験がほぼゼロの俺はそんなこと思いもしなかった。流石は瀬野くんだ、女の子の気持ちにまで配慮している。
俺が素直にコクリと頷くと、目元を覆っていた瀬野くんの手がスッと離れていった。急に視界が明るくなって思わず目を細める。パシパシと目を瞬かせしばらく俯いていると、ようやく目が光に慣れてきた。
「そろそろ行こうか、部活始まっちゃう」
「あ、うん……ごめんね」
「こんなことで謝らない。ほら、行くよー」
右手首を捕まれグッと引っ張られた。ワークと筆箱を落とさないよう慌てて左手で抑える。
教室を出て廊下を颯爽と歩く瀬野くんに引きずられながら、なんとか着いて行った。
帰るのが遅くなるかもしれないので両親に事情を話したら「学生は勉強が本分だから」と、思っていたよりあっさり許可が下りたのだ。
テストまで残り三週間、テストが終わるまで『ゆうやけ』でのバイトもお休みすることになった。
おばあちゃんが一人になるから心配だったけれど、
「もともと一人でやってたから大丈夫よ、お手伝いしてくれる人もいるし。優輝は勉強に専念なさい」と言ってくれたので、有難く休みをいただいた。
——こうなったら本気で赤点回避しないと、皆に顔向けできない。
机の上に用意して置いた数学ワークと筆箱を胸に抱え、カバンを肩にかけて席を立つ。
「原田、今から二人のとこ行くのか?」
「うん」
カバンと大きな巾着を二つ——練習着とスパイクが入ってるらしい——を持った瀬野くんが俺の机に片手を乗せて体重をかけた。
ただ立っているだけなのに、まるで雑誌の表紙みたいにとても絵になる。周りの女子たちのキャーッという叫び声が聞こえた。
「部活までちょっと時間あるから、途中まで一緒に行こ」
「うん、心強い。……お、俺、五組の前通ったことすらない、から」
「あー、結構奥の方だもんな。用事ないと行かないか」
「うん。……うん?」
ポンポンと頭を触られる感覚がした。
頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くす。
——え? なんで俺、瀬野くんに頭撫でられて……。
「あ、あの……」
「ん?」
「あああ、あの……」
「うん、どした?」
焦りすぎて、瀬野くんの前では久しぶりにこんなに吃ってしまう。床を見つめて、ゆっくり深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
バクバクと高鳴っていた心臓が少し落ち着いたのを自覚して瀬野くんを見るために顔を上げると、彼は未だに俺の頭を撫でながらニッコリと笑っていた。
——瀬野くん、なんでこんなに楽しそうなんだ……?
「あの、手……」
「ああ、ごめんな。寝癖ついてたから」
「寝癖!?」
朝ちゃんと鏡で確認してきたはずなのだが、見逃していたのだろうか。というか、朝からこの時間まで寝癖をつけっぱなしにしていたってことか!?
——まって、恥ずかしすぎる……!
「ど、どこ?」
「もう治したから大丈夫だよ」
「あ、ありがとうっ……!」
思わず大きな声が出てしまった。瀬野くんが驚いたように俺の頭から手を離す。その時ちょうど俺の大声に驚いたクラスメイトがこちらを振り返った。
——せ、セーフ……。見られなかった……よな?
焦って周りを見るが、男子生徒は不思議そうにこちらを眺めているだけだった。よしよし、大丈夫そうだ。さすがにさっきのは恥ずかしいから見られたくない。
安心して横を向くと、女子生徒数人とバッチリ目が合う。
——……そういえば、さっき瀬野くんを見てキャアキャア言ってたよな。ん?あのまま見られてたってことは、ない、よな……。ないよな!?
焦りで頭が真っ白になる。
恥ずかしさに思わず目を逸らそうとしたが、女子生徒達の驚きの混じった目の圧に視線を外すこともできず、意図せずお互いジッと見つめ合うような構図になる。
――ど、どうしよう……。
俺から何か話せるわけもなく、焦りだけが蓄積されていく。
すると、急に視界がふっと暗くなった。
真っ暗な視界の中、ところどころに光が差し込んでいる。それが指の隙間だと気づいたのは少しあとだった。
「えっと……え?」
誰がこんなことを……いや、瀬野くんしかいないか。他にこんなことをしてくるような仲の良いクラスメイトはいない。
しかし、なぜ急に目を隠されたのかが分からなかった。振り払おうにも手はワークと筆箱で塞がっているし、視界を奪われているからそれを机に置くこともできない。どうにもできずただ固まっていると、耳元から瀬野くんのささやく声が聞こえた。
「原田、そんなに女子をガン見したら駄目だよ」
「あっ……」
——たしかに、失礼だったかも!?
女子と話した経験がほぼゼロの俺はそんなこと思いもしなかった。流石は瀬野くんだ、女の子の気持ちにまで配慮している。
俺が素直にコクリと頷くと、目元を覆っていた瀬野くんの手がスッと離れていった。急に視界が明るくなって思わず目を細める。パシパシと目を瞬かせしばらく俯いていると、ようやく目が光に慣れてきた。
「そろそろ行こうか、部活始まっちゃう」
「あ、うん……ごめんね」
「こんなことで謝らない。ほら、行くよー」
右手首を捕まれグッと引っ張られた。ワークと筆箱を落とさないよう慌てて左手で抑える。
教室を出て廊下を颯爽と歩く瀬野くんに引きずられながら、なんとか着いて行った。



