駄菓子より甘い瀬野くん

***
 
「彰人、最近あからさまに原田に手を焼くようになってきたな……」
 原田が資料室を出ていったあと、隣の拓実がポツリと呟いた言葉にうんと頷き、同意する。
「だね。あの彰人が、まさか他人にカーディガンを貸すとは」
「てか、もう原田を他人とは言えないだろ」
「それもそうだね」
 四月、原田と出会ってからの彰人は、世界に初めて色がついたように目に輝きが宿った。成長していくにつれ失ってしまった光を、もう一度取り戻したように。
 
 彰人は自分の物を他人に貸すのがあまり好きではない。
 本当に困っている人がいれば、彰人は優しいからきちんと貸してあげる。けれど、それ以外で僕と拓実以外に物の貸し借りをしている場面を、今まで見たことがなかった。
 
 そして、この話は割と有名だ。
 というより、なぜか『瀬野彰人は潔癖症で人に物を貸すのが苦手』ということで広まったのだが……。
 実際には潔癖症とはまた違うと、僕と拓実は思っている。自分の物を他人に触られるのを、酷く嫌がるきらいがあるのだ。
 
 まあ話を戻すと、今日一日原田が注目されていたのは、人に物を貸さないと有名な彰人がカーディガンを貸したからだろう。噂が回ってきた時は、流石の僕と拓実も嘘だと思ったくらいだ。
 だから放課後、二人で確認しに行った。
 すると、本当に『瀬野』と縫われたカーディガンを着ている原田が廊下を歩いていたのだ。
 あの時は本当に驚いた。

 彰人は一体どれほど原田を信頼しているのだろう。
 この短期間で、彰人にとって原田は掛け替えのない存在になっている。
 そして、それだけじゃなくて——。
 
「……僕ら以外に気を許せる人ができたのはいいことだけど、ちゃんと見ておかないと。あのままだと暴走しかねない」
「だな。いつか『原田は俺の!』とか言ってきそう」
「うわー、言いそう……」
 彰人なら原田の嫌がることはしないという信頼はありつつ、あのまま暴走しないという保証もない。
 原田が好きで、大切なあまり、いつか何かをやらかしてしまいそうな――そんな嫌な予感が、どうしても離れないのだ。
 
「まあ、今の俺らに出来ることは二人を見守ることくらいか?」
「そうだね。なにかあったら助けてあげよう」
「いやー、ほんと彰人っていい友達持ったよなー!」
「もっと感謝してほしいよね」

 二人がいい関係を保てるよう、できる限りのサポートをしよう。
 それが、彰人に新たな光をもたらしてくれた原田に対して、僕らにできる唯一の恩返しだと思うから。

「とりあえず、原田泣かせたら彰人を締める」
「同意」
 あんな良い子を泣かせるなんて、流石の彰人でも許さないからね。