「よし! 原田、行くぞ!」
ホームルーム終わりのざわざわとした教室に瀬野くんのよく通る大きな声が響き渡る。
俺の目の前には、鞄片手にキラキラと瞳を輝かせている瀬野くんがいる。帰る準備は万端なようだ。
顔を上げると、瀬野くんの後ろにいたクラスメイトと目が合う。目が合ったクラスメイトはこちらに気づくとサッと気まずそうに視線をずらした。しかし、他のクラスメイト達はやはり気になるのか、こちらをジッと凝視していた。周りの妙な雰囲気に気づいてしまう。
――……やめて、俺のこと見ないで! そんなに注目しないで!
さっきの瀬野くんの声のせいだ。あと、瀬野くんが俺の机に手を付いて前のめりで俺を見ているから。
『なんであの二人が?』という疑問が見えない矢となって背中にグサグサと突き刺さる。
特に瀬野くんの取り巻き達が怪訝な顔で俺を見つめていた。
「なんで瀬野くん『外部生』にばっかり話しかけるの?」
「最近あいつばっかりだよな〜」
――聞こえてる聞こえてる! あとごめん、それは俺が一番不思議に思ってるからぁぁぁ……。
彼らは俺達に聞こえないよう小さな声で話しているのだが、残念ながら俺の真後ろで話しているため全部筒抜けだ……。目の前の彼の反応から見て、幸い瀬野くんには聞こえていなかったようだが。
正直、さっきの言葉には少し同意する。なぜ自分なんかが瀬野くんに構われているのか、俺自身が一番不思議に思っているからだ。
瀬野くんはあの日から毎日俺と屋上で弁当を食べるようになった。いつも食べてるらしい友達(?)はいいのか聞いても「大丈夫」の一点張り。正直だいぶ気になるのだが、その『友達』を俺は知らないのでどうしようもない。いつかそのお友達ともちゃんと話せたらいいな、とは思っている。
これは俺の勝手な想像なのだが、瀬野くんはたぶんクラスメイトの取り巻き達より例の友達の方が仲が良いと思うのだ。なぜなら、俺は瀬野くんが彼ら(取り巻き達)を『友達』と言っているところを聞いたことがないから。
だから、瀬野くんの言う『友達』がどんな人なのか純粋に気になる。俺がその人とちゃんと会話できるかは分からないけど……。
注目されていることへの現実逃避にそんなことを考えていると、動かない俺を不審に思ったのか瀬野くんが目の前でひらひらと手を振ってくる。
「原田ー? 大丈夫?」
「あ、うん……行こっか」
「よし! 今日めちゃくちゃ楽しみにしてたんだよ」
俺の帰る準備が終わると瀬野くんは俺の手を引き教室を飛び出ようとするので、慌てて机の上の鞄を掴む。
「うわっ!? ……ちょっと!」
「良いだろこれくらい! 原田も手を繋ぐのは慣れてきたよな〜」
「良い傾向だ!」なんて言って嬉しそうに笑う彼を見ると、なんだか無性に悔しくなってしまった。手を握られるのに慣れてしまったのが事実だからだろうか。
瀬野くんはよく俺の手を握る。
一度「どうして?」と聞いてみると「友達なんだから普通だろ」と返された。
これが普通なのかは俺には分からなかった。だって、俺には同年代の友達ができたことがないから。
とにかくその時の俺は、瀬野くんがそう言うならそうなのだろうと素直に受け取っていた。
それが「普通ではないかもしれない」と疑い出したのはいつからだっただろう。
最初は小さな違和感だった。
周りがよく俺らのことを見てるなと気づいた。その時は単に俺と瀬野くんが手を繋いでいるのが珍しくて――イケメンと地味男子の格差が凄いせいで笑われているんだと思っていた。いや、実際裏では笑われてはいるだろうけど……。まあそれは一旦置いといて。
次の違和感は、よく見ると周りの同年代で手を繋いでいる人がいなかったこと。
これに関してはなんで最初に気づかなかったのか自分でも不思議なのだが……。考えてみれば、高校生で手を繋いでいる人なんて、それこそカップル以外で見たことがなかった。
俺はその時初めて、周りが「俺と瀬野くん」を存在を見ているのではなく『手を繋いている』行為を皆見ているんじゃないかと気づいた。
――ここまで気付いていて、そのままにしてる俺も俺だけどな……。
瀬野くんに握られた右手の指先に少し力を込めると、彼の左手にぎゅっと握り返される。
さっきよりも密着したことで更に彼の体温を感じる。瀬野くんは意外と子供体温で、とても温かい。冷え性の俺からすればとても羨ましい。だんだんと瀬野くんの体温が俺の手にまで伝染して指先が温かくなる。
彼の体温が心地よく感じるようになったのはいつからだろうか。
彼と手を繋ぐことに安心感を覚えるようになったのはいつからだろうか。
結局俺は周りの視線よりも温もりを求めてしまった。
羞恥心よりも安心感を優先してしまった。
瀬野くんに安心感を覚える度に、魅せられる度に、自分がこのまま『友達』のままでいられるのか不安になる。
いつか、あの取り巻き達と同じように瀬野くんを自分の為に求めてしまいそうで怖くなる。
――でも、俺を『こう』したのは瀬野くんだから。
全ての責任を瀬野くんに押しつけて、目先の温もりに向かって手を伸ばした。
今だけは、この温もりは俺だけのもの……。
ホームルーム終わりのざわざわとした教室に瀬野くんのよく通る大きな声が響き渡る。
俺の目の前には、鞄片手にキラキラと瞳を輝かせている瀬野くんがいる。帰る準備は万端なようだ。
顔を上げると、瀬野くんの後ろにいたクラスメイトと目が合う。目が合ったクラスメイトはこちらに気づくとサッと気まずそうに視線をずらした。しかし、他のクラスメイト達はやはり気になるのか、こちらをジッと凝視していた。周りの妙な雰囲気に気づいてしまう。
――……やめて、俺のこと見ないで! そんなに注目しないで!
さっきの瀬野くんの声のせいだ。あと、瀬野くんが俺の机に手を付いて前のめりで俺を見ているから。
『なんであの二人が?』という疑問が見えない矢となって背中にグサグサと突き刺さる。
特に瀬野くんの取り巻き達が怪訝な顔で俺を見つめていた。
「なんで瀬野くん『外部生』にばっかり話しかけるの?」
「最近あいつばっかりだよな〜」
――聞こえてる聞こえてる! あとごめん、それは俺が一番不思議に思ってるからぁぁぁ……。
彼らは俺達に聞こえないよう小さな声で話しているのだが、残念ながら俺の真後ろで話しているため全部筒抜けだ……。目の前の彼の反応から見て、幸い瀬野くんには聞こえていなかったようだが。
正直、さっきの言葉には少し同意する。なぜ自分なんかが瀬野くんに構われているのか、俺自身が一番不思議に思っているからだ。
瀬野くんはあの日から毎日俺と屋上で弁当を食べるようになった。いつも食べてるらしい友達(?)はいいのか聞いても「大丈夫」の一点張り。正直だいぶ気になるのだが、その『友達』を俺は知らないのでどうしようもない。いつかそのお友達ともちゃんと話せたらいいな、とは思っている。
これは俺の勝手な想像なのだが、瀬野くんはたぶんクラスメイトの取り巻き達より例の友達の方が仲が良いと思うのだ。なぜなら、俺は瀬野くんが彼ら(取り巻き達)を『友達』と言っているところを聞いたことがないから。
だから、瀬野くんの言う『友達』がどんな人なのか純粋に気になる。俺がその人とちゃんと会話できるかは分からないけど……。
注目されていることへの現実逃避にそんなことを考えていると、動かない俺を不審に思ったのか瀬野くんが目の前でひらひらと手を振ってくる。
「原田ー? 大丈夫?」
「あ、うん……行こっか」
「よし! 今日めちゃくちゃ楽しみにしてたんだよ」
俺の帰る準備が終わると瀬野くんは俺の手を引き教室を飛び出ようとするので、慌てて机の上の鞄を掴む。
「うわっ!? ……ちょっと!」
「良いだろこれくらい! 原田も手を繋ぐのは慣れてきたよな〜」
「良い傾向だ!」なんて言って嬉しそうに笑う彼を見ると、なんだか無性に悔しくなってしまった。手を握られるのに慣れてしまったのが事実だからだろうか。
瀬野くんはよく俺の手を握る。
一度「どうして?」と聞いてみると「友達なんだから普通だろ」と返された。
これが普通なのかは俺には分からなかった。だって、俺には同年代の友達ができたことがないから。
とにかくその時の俺は、瀬野くんがそう言うならそうなのだろうと素直に受け取っていた。
それが「普通ではないかもしれない」と疑い出したのはいつからだっただろう。
最初は小さな違和感だった。
周りがよく俺らのことを見てるなと気づいた。その時は単に俺と瀬野くんが手を繋いでいるのが珍しくて――イケメンと地味男子の格差が凄いせいで笑われているんだと思っていた。いや、実際裏では笑われてはいるだろうけど……。まあそれは一旦置いといて。
次の違和感は、よく見ると周りの同年代で手を繋いでいる人がいなかったこと。
これに関してはなんで最初に気づかなかったのか自分でも不思議なのだが……。考えてみれば、高校生で手を繋いでいる人なんて、それこそカップル以外で見たことがなかった。
俺はその時初めて、周りが「俺と瀬野くん」を存在を見ているのではなく『手を繋いている』行為を皆見ているんじゃないかと気づいた。
――ここまで気付いていて、そのままにしてる俺も俺だけどな……。
瀬野くんに握られた右手の指先に少し力を込めると、彼の左手にぎゅっと握り返される。
さっきよりも密着したことで更に彼の体温を感じる。瀬野くんは意外と子供体温で、とても温かい。冷え性の俺からすればとても羨ましい。だんだんと瀬野くんの体温が俺の手にまで伝染して指先が温かくなる。
彼の体温が心地よく感じるようになったのはいつからだろうか。
彼と手を繋ぐことに安心感を覚えるようになったのはいつからだろうか。
結局俺は周りの視線よりも温もりを求めてしまった。
羞恥心よりも安心感を優先してしまった。
瀬野くんに安心感を覚える度に、魅せられる度に、自分がこのまま『友達』のままでいられるのか不安になる。
いつか、あの取り巻き達と同じように瀬野くんを自分の為に求めてしまいそうで怖くなる。
――でも、俺を『こう』したのは瀬野くんだから。
全ての責任を瀬野くんに押しつけて、目先の温もりに向かって手を伸ばした。
今だけは、この温もりは俺だけのもの……。



