無愛想なルームメイトは、夢の中で俺に溺れている

二人の呼吸が重なるたびに、狭いシングルベッドの上で境界線がさらに溶けていく。    


湊の腕は、まるで俺を物理的に自分の一部にしてしまおうとするかのように力強かった。
俺の肌に触れるあいつの指先が、熱を帯びて、細かく震えている。
それが単なる欲望だけでなく、俺を失うことへの恐怖や、ようやく手に入れたという安堵から来ているのだと、今の俺には痛いほど分かった。

「……悠真、……本当に俺でいいんだな?」    

湊が、俺の耳元で掠れた声を漏らす。  


あんなにかっこよくて、大学のスターで、何でも持っているような男が、俺一人の一言をこれほどまでに渇望している。
その「歪なまでの愛」が、今はたまらなく愛おしかった。

「いいって……何回言わせるんだよ。俺も、お前じゃなきゃ、こんなこと、絶対させない」

俺が湊の首筋に手を回し、自分から引き寄せると、湊は喉の奥で小さく呻いた。  


そのまま、深い深い、終わりのないような口づけが繰り返される。


時計の針が午前三時を回った頃。  


嵐が過ぎ去った後の海のように、静かな沈黙が寝室を支配していた。


一つの毛布の下で、俺たちの足が絡まり合っている。
湊は俺の肩を抱き寄せ、俺はあいつの胸の鼓動を耳で聞きながら、ぼんやりと開け放たれたカーテンの向こうを見つめていた。

「……なあ、湊」

「なんだ」

「……俺たち、明日から普通に大学行けるかな。俺、お前の顔見るたびに、今日の事思い出してニヤけちゃいそうなんだけど」    

湊が低く笑い、俺の額に鼻先を寄せた。

「俺は、お前に触れたくて仕方がなくなるだろうな。講義中も、飯を食っている時も。……昨日までよく我慢できていたと、自分を褒めてやりたい」

「……お前、キャラ崩壊しすぎだろ……」

そう言いながらも、俺は幸せで胸がいっぱいだった。  


あんなに不気味だと思っていた「寝言」が、今ではこの幸せを運んでくれた魔法の合図のように思える。

「……ねぇ、湊。……もう一度、言ってよ」

「何をだ」

「……さっきの。……世界で一番、なんとかってやつ」

湊は少しだけ照れたように視線を逸らしたが、すぐに意を決したように俺の目を見つめ直した。  その瞳は、暗闇の中でも星のように輝いて見える。

「……悠真。……お前は、俺の世界で一番、大切で、愛おしい存在だ。……これからもずっと、俺の隣にいろ。……ルームメイトとしてじゃなく、俺の、たった一人の恋人として」

その言葉が、俺の心の奥底に最後の一滴まで満たされていく。  


俺は湊の胸に顔を埋め、あいつの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

「……俺も、……大好きだよ、湊。……お前の寝言、これからも一生、俺が隣で聞いてやるからさ」

湊が幸せそうに笑い、俺の腰を抱き寄せる。  


もう、仕切りのカーテンはいらない。  


俺たちの間に、隠すべきものなんて何一つないのだから。


翌朝、窓から差し込む陽の光が、二人の重なった影を優しく照らした。  


湊がキッチンでコーヒーを淹れる音が聞こえる。
それは、昨日までと同じ日常の音。  


だけど、テーブルに並んだ二つのマグカップは、昨日までよりもずっと誇らしげに、寄り添って並んでいた。


俺たちの物語は、ここからまた新しい一歩を踏み出す。  


一歩一歩、二人で、この広い世界を歩いていくんだ。

「……悠真、コーヒーが入ったぞ」

「……おう、今行く!」

俺は湊の待つリビングへと、弾むような足取りで向かった。  


最高の朝食と、世界で一番大好きなあいつが待つ、俺たちの家へ。