「彼との出会いね、バイク同好会であったバーベキューの集まりに参加したのがキッカケだったの。そうゆう集まり行ったことないしさ、緊張したんだけど、友達に誘われて思い切って行ったら彼に声かけられて、それで……!」
「クワァァァァ」
 話の佳境で大きなあくびをされた挙句、体を「ウニャアー」と伸ばして、大口を開ける猫。
 私の方を一切見ず、目を細めて、首をグニュグニュと動かす。

「ねぇ、ちょっとぐらい聞いてよー! それで彼に付き合ってと言われて、うん、みたいな感じだったのぉー!」
「アンタ、バイク好きニャ?」
 こちらを見据える細い目は、全てを見通したような純粋な瞳。
「……うーん、まあ……。好きになれたら、良かったんだけどね」
 この目に嘘を吐くことなんか出来なくて、本音がポロッと溢れてしまう。

「はいニャ」
 猫が咥えてきて、コロンと転がるのは白いビニール紐。部屋の隅で山盛りになっていたのを掻き分けて、持ってきてくれたようだ。
「……ありがとう」
 本心からそう告げ、雑誌を重ねてギュッと縛る。

「全く、どんだけあんのこれ?」
 積み重なっているのはバイク専門雑誌だけでなく、ネット通販用のバイク情報誌、メンズ雑誌、ヘアセット専門誌まであった。

 ……何も、この部屋に置いていかなくて良いのにね。
 そんなんだから、私は……。

 モヤモヤと浮かぶ、不毛すぎる考え。
 ポタポタと落ちてきそうな、心の傷口からの出血。
 やめよう、カサブタが取れたばかり傷口は脆く、僅かな刺激でダラダラと溢れてくる。

 ……でもそれなら、カットバンを貼れば良いよね。
 カサブタができるまで、様々な刺激から守ってくれる優しい保護テープ。
 今までの私なら滲みる痛みに耐えられず、押し入れを開かずの間にして締め切ってしまったけど、私には今優しく守ってくれる存在がいる。

 まあ、おマヌケで、毒舌で、全部捨てろとか両極端なんだけど、これぐらいぶっ飛んでいる方が面白くて、笑えて、楽しくて。
 だから何だか、やりきれそうな気がしてくる。
 小さな小さな、パートナーのおかげで。