「アタイは木の上で、ひなたポカポカ好きニャ。それを屋根の上にされたら、嫌ニャアニャア」
　その声にギュッと閉じていた目を開くと、猫は首をブンブンと横に振っている。

「散歩コース変えられたら、ムキィーとなるニャ」
　次は目を大きく開かせ、毛を逆立てて、尻尾で床をぺちぺち叩く。

「誰かと一緒、疲れるニャ。でもアタイは、どうしようとはならないニャ。ニンゲンが群れニャイと生きれないのは、分かるニャ。でもニンゲンは、ずっと、ずーと群れないと、死んでしまうほど弱い生き物かニャ？」
「……そんなことは、ないと思うけど」
「だったら、生存のための群れだけで充分ニャ。ニャンで疲れると言うのに、ニンゲンは群れるニャ？　分かんないニャー」
　天性の自由人、いや自由獣である猫は、人間のしがらみなんて分からないだろう。
　でもね、そうなんだよ。仕事や町内会みたいな生存のための集まりには、ちゃんと参加しているもんね。
　だったら別に、それ以外の時間は好きに過ごして良いじゃない？
　自分の人生なんだから。

　これはおそらく、私に対してではなく、前に見ていたことなんだろう。
　……前の飼い主さんも、もしかしたらムリとかしていたのかもしれないな。

「って言うか、シングルライフもほどほどにしなよ？　木の枝に引っかかって降りて来られないなんて、生存に関わる問題なことじゃない？」
「ウニャア！　あれはたまたまだニャ。いつもは華麗なステップで降りるニャ」
　プイッとするとモフモフな毛がフワッと揺れ、体調不良だったことを忘れるぐらいに、ふふっと笑えてくる。