「ゴホッ、ゴホッ。はぁはぁ……」
 ピピっと鳴る体温計が差す数字は38.4℃。
 頭がガンガンと痛くて、天井が回っていると錯覚を起こすぐらいに視界はグラングランと揺れ、吐き出す息は熱くて速くて。なのに身体は悪寒と呼ばれる震えを繰り返し、まだ熱が上がってくるのかと心が折れそうになる。

 昨日、コートを着ていたとはいえ、雪が降る中に立ち尽くすにしては薄着だったようで。数時間経つ頃には身震いが止まらなくなり、部屋に帰ってきてストーブに当たり続けたけど、当然それだけで済むはずはない。
 必然と風邪を引いてしまった。

 年末の忙しい時に仕事を休み、部屋で一人うなされている私。
 何やってるんだろう? これじゃあ、猫も探しに行けないよ。

「はぁ……、本当に何やってるんだろうね……」
 額に置いた濡れタオルをズラして、目元に手のひらを押し付け、「ううっ」と声が漏れる。

 私がこんなんだから、大切な人はみんな居なくなる。
 バカで、無神経だから。人付き合い下手なクセに、余計なこと言うから。

「猫……」
 手を伸ばすけど、当然ながら私の手を握ってくれる存在なんて誰もいなくて、その手は目元に戻ってきて、生ぬるくなった濡れタオルを押し付ける。

 洗面器に張った水もぬるくて、水を取り替えるために立ち上がる気力もなくて、タオルを絞る力すらなくて。
 昔は一人暮らしの鉄則として、風邪薬とか、冷えジェルとか、お粥とか完備していた。だけど彼が居なくなって、全てがどうでも良くなって、物が増えたら置く場所がないからと自己管理すら放棄した。
 それが物に溢れた部屋の理由。一つが崩れると、全てがどうでも良くなるんだよね。
 あーあ、情けないな私。これからも、ずっとそうやって生きていくのかな。

 ……なーんて、風邪のせいで弱気になってるだけだよ。
 大丈夫、大丈夫。
 一眠りすれば、風邪なんか治ってるから。
 私はいつも一人だった。ただ、それだけのことじゃない。

 目元にぬるいタオルを置いたまま、静かに目を閉じる。
 熱い、気持ち悪い、息苦しい。
 うわ言のように呟いても、誰も来てくれはしないよ。
 分かってる。分かってるよ。