〈この調べと ともに〉
シャウト (SHOUT)
オチュニズム (Ochunism)
♪
医療機器の電子音。
弱々しいコオロギの声。
この部屋で聞こえるのは、それだけ。
看護師さんと相談して、寝るときはスマホを預かってもらっている。
十分だ。
昼間は、YouTubeとインスタグラムとTikTokざんまいだから。
それしかやることはない。
ほかのことはやりたくない。
ニュースサイトは絶対見たくない。
思ってたんだ。
いや、正確に言うと、思ってもいなかったんだ。
死ぬこと。
それが家族に起きること。
それが自分に起きること。
それは、ずっと遠く、遠くの話。
いや、みんなそう思ってるでしょ?
……死を身近に感じてなかったなんて、なんて幸せな奴だって?
確かにそうかもね。でも、今はちがう。
この部屋に来る直前、
ああ、私はこのまま死ぬんだなって、初めて思った。
だけど、悔しさも悲しさも感じなかった。
だって、
痛かったし、苦しかったし。
もういいやって思った。
もういいやって、今でも思ってる。
もういいでしょ?
学校行って、フツーに勉強して、
夕べ見た動画や恋ばなをクラスメイトとダベって、
家帰ってフツーに宿題して、
動画見て。
これが、生きている価値、ベネフィット。
これって今、こうやって病院のベッドで寝てるのと、あんまり違くない?
生きてる。
それだけ。
死んでない。
それだけ。
私の体とつながっている機械の電子音が消えたら、それは簡単にひっくり返る。
死んでる。
そうなるだけ。
生きてない。
そうなるだけ。
母さんはどうなった?
父さんはどうなった?
気にしてないよって思うようにしている。
だって、看護師さんも、見舞いに来てくれた親戚も、だれもなにも教えてくれないし。
だから夜中に、ふとニュースサイトを見ちゃわないように、スマホを預かってもらっている。
私自身もこれからどうなるかわからないけど、
たぶん、生かされるんだろうな。
死がこんなに近くて簡単だって知ってしまったけど。
暗闇の中で機械の緑や赤のランプだけが光っている。
それは、宇宙船が発している光だと妄想する。
私は、チューブとコードで、船につながっている。
真空の世界でも生きていられるように。
生きている、ということにするために。
結局のところ、私はこの宇宙にひとりぼっちだ。
それがちょっとさみしいと思う。
さみしいと思えるのなら、少しは残っているのかもしれない。
生きたいっていう気持ちが。
私は探す。
さみしさの粒々が、体のどこにあるのか。
それを集めて、小さなかたまりをつくる。
あめ玉くらいの大きさの。
それが、
熱く、冷たく、脈打ち。
赤く、青く、ビートを鳴らしながら。
私の『のど』にたどり着き、そこから飛び出そうとしている。
まるで、ソイツが私自身みたいだ。
何かを伝えたがっている。
だから、顔に枕を押しつけ、叫んだ。
わかってるよ!
このままだと、宇宙のどこかに行っちゃうよ!
だから、だれか!
救助船を出して!
ここまで来てよ!
助けて!
……お願い。
シャウト (SHOUT)
オチュニズム (Ochunism)
♪
医療機器の電子音。
弱々しいコオロギの声。
この部屋で聞こえるのは、それだけ。
看護師さんと相談して、寝るときはスマホを預かってもらっている。
十分だ。
昼間は、YouTubeとインスタグラムとTikTokざんまいだから。
それしかやることはない。
ほかのことはやりたくない。
ニュースサイトは絶対見たくない。
思ってたんだ。
いや、正確に言うと、思ってもいなかったんだ。
死ぬこと。
それが家族に起きること。
それが自分に起きること。
それは、ずっと遠く、遠くの話。
いや、みんなそう思ってるでしょ?
……死を身近に感じてなかったなんて、なんて幸せな奴だって?
確かにそうかもね。でも、今はちがう。
この部屋に来る直前、
ああ、私はこのまま死ぬんだなって、初めて思った。
だけど、悔しさも悲しさも感じなかった。
だって、
痛かったし、苦しかったし。
もういいやって思った。
もういいやって、今でも思ってる。
もういいでしょ?
学校行って、フツーに勉強して、
夕べ見た動画や恋ばなをクラスメイトとダベって、
家帰ってフツーに宿題して、
動画見て。
これが、生きている価値、ベネフィット。
これって今、こうやって病院のベッドで寝てるのと、あんまり違くない?
生きてる。
それだけ。
死んでない。
それだけ。
私の体とつながっている機械の電子音が消えたら、それは簡単にひっくり返る。
死んでる。
そうなるだけ。
生きてない。
そうなるだけ。
母さんはどうなった?
父さんはどうなった?
気にしてないよって思うようにしている。
だって、看護師さんも、見舞いに来てくれた親戚も、だれもなにも教えてくれないし。
だから夜中に、ふとニュースサイトを見ちゃわないように、スマホを預かってもらっている。
私自身もこれからどうなるかわからないけど、
たぶん、生かされるんだろうな。
死がこんなに近くて簡単だって知ってしまったけど。
暗闇の中で機械の緑や赤のランプだけが光っている。
それは、宇宙船が発している光だと妄想する。
私は、チューブとコードで、船につながっている。
真空の世界でも生きていられるように。
生きている、ということにするために。
結局のところ、私はこの宇宙にひとりぼっちだ。
それがちょっとさみしいと思う。
さみしいと思えるのなら、少しは残っているのかもしれない。
生きたいっていう気持ちが。
私は探す。
さみしさの粒々が、体のどこにあるのか。
それを集めて、小さなかたまりをつくる。
あめ玉くらいの大きさの。
それが、
熱く、冷たく、脈打ち。
赤く、青く、ビートを鳴らしながら。
私の『のど』にたどり着き、そこから飛び出そうとしている。
まるで、ソイツが私自身みたいだ。
何かを伝えたがっている。
だから、顔に枕を押しつけ、叫んだ。
わかってるよ!
このままだと、宇宙のどこかに行っちゃうよ!
だから、だれか!
救助船を出して!
ここまで来てよ!
助けて!
……お願い。



