トップノートの香りと君と―焙煎部の恋―


 俺が最近どうも本調子ではないのは、西島先輩の責任だと思う。
 あのイケメン。距離が近すぎ!


 焙煎部に入った同級生で、幽霊部員でない部員は俺の他に2人いた。
 三浦と神谷。
 三浦はボーイッシュな女子生徒で俺より背が高く、神谷は男子にしては小さな方だから、二人が並ぶと悪いけど姉弟みたいに見えてしまう。
 いつも目を細めて笑っている穏やかな神谷の横で、シニカルな表情で毒舌を吐く三浦。
 この二人と文化祭準備のために焙煎部1年生として顔を突き合わせることが増えてきた。



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 義憤にかられると我が身を顧みずに突っ走る。
 一般的にヒーローと言えば、そんなふうに自分の正義に真っ直ぐなアツい男のイメージを心に浮かべる。
 西島先輩は決してそんなタイプではないけれど、ルールに縛られずに生きているような飄々とした態度や多くを語らずにさり気なく俺をフォローする姿にヒーロー気質を感じることがある。
 そんなこと言ったら、当の本人は鼻で笑うに決まっているけれど。
 すきあらば俺の制服を脱がせようとするとんでもない男にさまざまな局面で救われていると感じる俺は、もしかしたらヤバいのかもしれない。

 普段、俺が独り占めのようにしていた西島先輩が文化祭準備に入った段階で多くの実行委員と行動を共にするようになって俺はモヤっとした。
 モヤっとする俺に俺自身が衝撃を受けた。
 なんだこの感情は。 
 西島先輩がアウトローのヒーローだろうが女生徒にとって純なヒーローだろうが、ヒーローはみんなのものだ。
 俺だけが独占しちゃダメじゃん。
 そうは思うのだけど、なんだか黒い感情が気が付くと腹の底に滲み出てきていて俺は落ち着かずに部室の中を歩きまわった。
 この気持ちをくしゃくしゃに丸めてポケットの中にしまい込みたい。
 ポケットに隠すだけじゃなくて海辺にでも行って燃やしてしまいたい。



「三木。おまえ大丈夫?」
 珈琲を淹れているときに魂を飛ばしていると、西島先輩が俺の顔を覗き込んできた。
 あ。
 俺のところに来てくれた。
 って。
 来てくれたって何だよ。俺、卑屈になってる。
 子どもかよ。
「…海の中に潜ってましたね」
 普段、教室でタブレットを使う際のキーボードの打鍵音や椅子のぶつかる音の対処はできるようになっているけれど、行事が近付くと環境音の質が変わってきてエネルギーを多大に使う。
 賑やかに文化祭準備をする生徒の雑踏音が、俺の頭や耳の奥にぎりぎりと捩じ込まれるように響く。
 ただでさえ学校行事は俺の頭痛案件なのに、この気持ちのモヤモヤが俺の心を重たくさせていた。
 はぁ。
 すかっとしたい。


      


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