「昨日届け出た。でも事件性が低いって言われちゃって」
「事件性?」
「うん。日葵、通帳と印鑑をしっかり持って家を出て行ってたの。普段から通帳も印鑑も持ち歩くことってそうそうないでしょ? だから警察はそもそも家出をするつもりで家を出たんじゃないかって考えたみたい。もう成人だし、よっぽどのことがないと事件性は疑われないらしい。ひとまず一般行方不明者として登録はしますって感じだった」
「そんな、あっさりと……」
期待外れの警察の対応に、璃子はしゅんと肩を落とす。俺も同じ気持ちだった。くそ、警察め。そんなすぐに事件性がないとか決めつけやがって。もしかしたら事件に巻き込まれてる可能性だってあるのに。通帳や印鑑を持っていたとしても、単に銀行に寄っただけとも考えられるじゃないか。
「家出か……うーん、怪しいなあ。そもそも日葵は一人暮らしをしてたのに、家出するかあ? しかもあいつに限って。わざわざ帰省した先で? 世界中の太陽を集めたみたいに明るくて裏表のないやつなのに」
「太陽は世界に一つしかないでしょ」
「というか、宇宙にしかないよ」
涼の見解に、みくりと璃子が斜め上からツッコミを入れる。太陽のくだりはさておき、確かに一人暮らしをしている日葵が家出をする理由は考えられないな……。
「葉月は俺たちにひまのこと探してほしいんだよな? 今日小学校前に集合したのはなんか意味がある?」
俺は三人から一度視線を外し、葉月に向き直る。とにかく一刻も早く日葵を見つけ出さなければ。その一心で、葉月の言葉に耳を傾ける。
「そう。みんなに日葵のこと探してほしい。でもその前に、やることがあって。日葵が家を出ていく前に、彼女から頼まれたことがあるの」
「頼まれたこと?」
「昔小学校に埋めたタイムカプセルを開けてほしい——そう言われた」
葉月の声は心なしか震えていた。
何かに怯えたような表情をして、すぐに真面目な顔つきに戻る。
「タイムカプセルか……」
葉月の言葉に、全員が思い出したかのように「そういえば埋めたね」とつぶやく。
「なんで日葵はそんなこと言ったんだ? あれ、二十歳になったらみんなでお酒飲みながら開けようぜって話だったじゃん」
「お酒飲むのはあんただけでしょ」
「え、そうなの!? みんな飲まねえのか!」
「ちょっと涼くん、今はそんな話してる場合じゃ……」
璃子が、いつものおバカな調子で話をする涼をやんわりたしなめる。
「ご、ごめん。でもなんでまたタイムカプセルなんて……」
「私も理由は分からない。でも本当に、日葵が消える前にそう言ったの。だから開けに行きましょう」
先ほどとは違って、今度は妙に落ち着いた様子で葉月が告げた。なんだろう。この違和感は。葉月はタイムカプセルを埋めたメンバーに含まれてはいない。それなのに、タイムカプセルを率先して掘り起こそうとしているのが、ちぐはぐな気がするのだ。
みんなは俺みたいに違和感を抱かなかったのか、「そこまで言うならまあ」と歩き出した葉月についていく。
「というか、休日なのに勝手に小学校入っていいの?」
みくりが訊く。
「大丈夫。さっき許可取ってきたから」
「用意周到だな。あ、もしかしてそれでちょっと遅れてきたのか」
「うん」
聞かれたことに淡々と答えていく葉月。その後は無言で校庭の端っこに植えられた桜の木の下までやってきた。当然桜は咲いていない。灼熱の太陽がジリジリと背中を灼け焦がしていく。小学校自体久しぶりで懐かしいという感覚はあったが、それ以上に暑さであまり余計なことは考えられそうになかった。
「この辺だったよな。土を掘る道具はあるの?」
「それも持ってきた」
彼女は持っていたトートバックからビニール袋を取り出し、さらにその中からスコップを出した。
「これで掘り返しましょう。私は詳しい位置が分からないから、陽太くんお願い」
「お、おう」
葉月にスコップを渡されて、汗ばんだ手で握りしめた。
「確かこの辺だったよな」
桜の木の根元を、記憶に沿って掘り始める。みんな、黙って俺の動きを見守ってくれていた。誰からも何も指摘がないので、みんなの記憶でもここが正しい位置なんだろう。
掘り始めてちょっとすると、スコップが硬い物にコツンと当たった。周りの土をどけていくと、見覚えのあるお菓子の缶が現れる。
「出てきたぞ」
土を被った缶を掘り出して、地面に置く。
「懐かしいな。劣化とかしてないんだなー」
涼がまじまじと缶を見つめる。
「開けるぞ?」
全員の顔を見回す。葉月の表情がわずかに曇ったように見えた。でもほんの一瞬のことで、すぐにまた真顔に戻った。
「事件性?」
「うん。日葵、通帳と印鑑をしっかり持って家を出て行ってたの。普段から通帳も印鑑も持ち歩くことってそうそうないでしょ? だから警察はそもそも家出をするつもりで家を出たんじゃないかって考えたみたい。もう成人だし、よっぽどのことがないと事件性は疑われないらしい。ひとまず一般行方不明者として登録はしますって感じだった」
「そんな、あっさりと……」
期待外れの警察の対応に、璃子はしゅんと肩を落とす。俺も同じ気持ちだった。くそ、警察め。そんなすぐに事件性がないとか決めつけやがって。もしかしたら事件に巻き込まれてる可能性だってあるのに。通帳や印鑑を持っていたとしても、単に銀行に寄っただけとも考えられるじゃないか。
「家出か……うーん、怪しいなあ。そもそも日葵は一人暮らしをしてたのに、家出するかあ? しかもあいつに限って。わざわざ帰省した先で? 世界中の太陽を集めたみたいに明るくて裏表のないやつなのに」
「太陽は世界に一つしかないでしょ」
「というか、宇宙にしかないよ」
涼の見解に、みくりと璃子が斜め上からツッコミを入れる。太陽のくだりはさておき、確かに一人暮らしをしている日葵が家出をする理由は考えられないな……。
「葉月は俺たちにひまのこと探してほしいんだよな? 今日小学校前に集合したのはなんか意味がある?」
俺は三人から一度視線を外し、葉月に向き直る。とにかく一刻も早く日葵を見つけ出さなければ。その一心で、葉月の言葉に耳を傾ける。
「そう。みんなに日葵のこと探してほしい。でもその前に、やることがあって。日葵が家を出ていく前に、彼女から頼まれたことがあるの」
「頼まれたこと?」
「昔小学校に埋めたタイムカプセルを開けてほしい——そう言われた」
葉月の声は心なしか震えていた。
何かに怯えたような表情をして、すぐに真面目な顔つきに戻る。
「タイムカプセルか……」
葉月の言葉に、全員が思い出したかのように「そういえば埋めたね」とつぶやく。
「なんで日葵はそんなこと言ったんだ? あれ、二十歳になったらみんなでお酒飲みながら開けようぜって話だったじゃん」
「お酒飲むのはあんただけでしょ」
「え、そうなの!? みんな飲まねえのか!」
「ちょっと涼くん、今はそんな話してる場合じゃ……」
璃子が、いつものおバカな調子で話をする涼をやんわりたしなめる。
「ご、ごめん。でもなんでまたタイムカプセルなんて……」
「私も理由は分からない。でも本当に、日葵が消える前にそう言ったの。だから開けに行きましょう」
先ほどとは違って、今度は妙に落ち着いた様子で葉月が告げた。なんだろう。この違和感は。葉月はタイムカプセルを埋めたメンバーに含まれてはいない。それなのに、タイムカプセルを率先して掘り起こそうとしているのが、ちぐはぐな気がするのだ。
みんなは俺みたいに違和感を抱かなかったのか、「そこまで言うならまあ」と歩き出した葉月についていく。
「というか、休日なのに勝手に小学校入っていいの?」
みくりが訊く。
「大丈夫。さっき許可取ってきたから」
「用意周到だな。あ、もしかしてそれでちょっと遅れてきたのか」
「うん」
聞かれたことに淡々と答えていく葉月。その後は無言で校庭の端っこに植えられた桜の木の下までやってきた。当然桜は咲いていない。灼熱の太陽がジリジリと背中を灼け焦がしていく。小学校自体久しぶりで懐かしいという感覚はあったが、それ以上に暑さであまり余計なことは考えられそうになかった。
「この辺だったよな。土を掘る道具はあるの?」
「それも持ってきた」
彼女は持っていたトートバックからビニール袋を取り出し、さらにその中からスコップを出した。
「これで掘り返しましょう。私は詳しい位置が分からないから、陽太くんお願い」
「お、おう」
葉月にスコップを渡されて、汗ばんだ手で握りしめた。
「確かこの辺だったよな」
桜の木の根元を、記憶に沿って掘り始める。みんな、黙って俺の動きを見守ってくれていた。誰からも何も指摘がないので、みんなの記憶でもここが正しい位置なんだろう。
掘り始めてちょっとすると、スコップが硬い物にコツンと当たった。周りの土をどけていくと、見覚えのあるお菓子の缶が現れる。
「出てきたぞ」
土を被った缶を掘り出して、地面に置く。
「懐かしいな。劣化とかしてないんだなー」
涼がまじまじと缶を見つめる。
「開けるぞ?」
全員の顔を見回す。葉月の表情がわずかに曇ったように見えた。でもほんの一瞬のことで、すぐにまた真顔に戻った。



