八月二日、俺たち五人は通っていた西山城(にしやましろ)小学校の校門前に集まることになっていた。
 真夏なので、どこかの店や施設に入りたい気持ちは山々だが、他人にはあまり聞かれたくない話だから、と葉月が指定したのだ。俺も彼女の意見には賛成だ。
 先に集まったのは声をかけられたいつメン四人で、葉月はまだ来ていない。

「よお、みんな久しぶりだな」

 この中でいちばんひょうきんものの涼が右手を上げる。大学生になり、ツンツン頭は金色に近い茶色に染まっている。その髪の毛を見て、みくりが「あんたさ」とすぐさまツッコミを入れた。

「その染め方、ザ・大学デビューって感じね」

「は!? べつにいいだろ! みんなやってんだし」

「悪いなんて一言も言ってないでしょ。大学生になって初めて髪の毛を染めた人の色ってみんなそんな感じだよねーって言ってるだけ」

「ぐう、確かにそれはそうかもしれん。周りの友達と色かぶりまくってさあ」

「ほら、やっぱり」

 呆れた様子のみくりは、くるりと毛先がパーマで丸まっていて、赤く染まっている。さらにポニーテールでひとつに括ったその姿は、俺や涼と比べるとかなり垢抜けている。
 かくいう俺も、無難な茶髪になっているが、涼ほどまぶしい色ではない。暗めのトーンにしておいてよかったとほっとする。

「みんな、そんな明るいテンションなの……? わたし、ちょっとまだ混乱してるんだけど……」

 四人の中では気弱でおとなしい璃子が肩をすくめながら言った。彼女はみんなの中でもっともイメージが変わっていないかもしれない。黒髪のロングヘア。メガネも高校時代から健在で、今もかけている。強いて言えばメガネのフレームの色が明るくなったかな? と思うぐらい。

「いやあ、そうだよな。ごめんごめん。おれも本当はずっと緊張してる。けど、バカやってないと平常心でいられないというか」

「あたしも。葉月からのLINEが本当なのかまだ疑ってるけど、本当だったらどうしようって思うと、怖い」

 すんと真面目な表情になった涼とみくりを見て璃子はほっとしたのか、「やっぱりそうだよね」とため息を吐いた。

「陽太は? お前は落ち着いてるように見えるな」

 涼がわざとおどけた様子で言う。けれど、俺はブンブンと首を横に振った。

「落ち着いてるわけないだろ。一昨日葉月から連絡が来たときからもうずっと心臓がうるさくて、二日ともほぼ寝れてないんだ」

「……」

 俺の悲惨な物言いに三人は一斉に押し黙る。
 この中でいちばん、ひまのことを考えていたのは絶対に俺だ。
 だって俺は、唯一みんなの中で幼稚園から高校まで日葵と一緒だったのだ。他のみんなは小学校でできた友達だから。大学だって、東京に行ったところまで同じだったし。まあ、東京でほとんど会っていないのだけれど……。
 でも、日葵に対する気持ちが強いのは自分だって断言できる。
 だって俺は、ひまのことをずっと——。

「みんな、お待たせしました」

 ぐるぐるといなくなった彼女のことを考えているうちに、ひょっこりと後ろから姿を現したのは葉月だった。足音がほとんどしなかったので、驚いてひっくり返りそうになった。

「は、葉月……久しぶりだな」
 しどろもどろになりながら挨拶をする。葉月はこくんと頷いて、急に呼び出してごめんと頭を下げた。

「いや、謝ることじゃないわ。それより日葵がいなくなったって詳しい状況を教えてくれない?」

 みくりがさっと葉月に話を促す。こういう時、いちばんハキハキと喋るみくりが頼りになる。

「いなくなったのは七月二十六日の夜——みんなに連絡を入れる五日前の夜だった。日葵は大学のテストがその前日に終わってすでに夏休みに入ってて、その日の夜に帰ってきたの。それで、二人で一晩一緒に過ごして、二十六日の夕方ごろ、日葵が『友達と約束があるから』って家を出て行ったきり帰ってこなくて……」

「友達と約束? それって地元の友達だよね」

「たぶん……。私はてっきり、この中の誰かと会うのだとばかり思ってたからそれほど気にしてなかったんだけど。その日、日付が変わる時間帯になっても帰ってこなくて。でもまあ、大学生だし久しぶりに会った友達と夜通し遊ぶこともあるかなって思って特に連絡はしてなかった。だけど、一日経っても、二日、三日、四日……五日経っても日葵は帰ってこなかったの。さすがにおかしいと思って、それでみんなに連絡した。もしかしたら、この中の誰かが『今一緒にいるよ』って返事くれるかなとも思ってたんだけど……」

 葉月は俺たち全員の顔をぐるりと見回す。みんなの顔にだんだんと不安の色が滲んでいく。

「結局誰からも期待していた返事はなかったっていうわけね」

「そうなの。みんなにも話を聞いておきたくて、今日集まってもらいました」

 そういう葉月は冷静なように見えるが、きっと心の中は大切な双子の姉がいなくなったことでかなり焦っているのだろう。心なしか声が震えていた。

「東京の下宿先は?」

「一昨日行ってみたけど、鍵が閉まってて、気配もなかった」

「警察には届け出たのかな?」

 璃子がもっともな質問を投げる。葉月はここでも「うん」と頷いた。