陽太くんから日葵ちゃんと最後に会った日のことを聞かれたとき、それがいつだったかはっきりと思い出せなかった。たぶん、高校の卒業式だったと思う。日葵ちゃんとは高校まで一緒だったから。でも、「またね」とさっとお別れをしただけで、深い話はしなかった。できなかったんだ。わたし、日葵ちゃんとは高校時代に気まずくなった思い出があって、それ以来彼女とまともに話せなくなってたから……。
そんな話は陽太くんにはしなかった。ただ卒業式でお別れをしたよ、と告げると表情を曇らせたまま「そうか」と頷いただけだった。
わたしたち三人と話をした陽太くんは何を思ったんだろう。抜け殻のような表情で、「みんな、いろいろ教えてくれてありがとう」と表面上だけで小さく頭を下げた。
「で、何か分かった?」
みくりちゃんが苛立ちを滲ませながら訊く。
「みんなの話を聞いても……正直ひまが今どこにいるかっていう手がかりは見つからなかった」
消沈した様子で答える陽太くん。これには涼くんも深いため息をついた。
「そりゃそうだろっ。まだおれたちが日葵を隠したとでも思ってるのか?」
「いや……今は思ってない。でも、この中の誰かがひまの失踪に関係してるとは思ってる」
「……」
陽太くんは頑なに、わたしたちの中に犯人がいることを疑ってやまない。でもまあ、それも仕方ないと思う。だってあんな手紙がタイムカプセルから出てきたんだもの。それに、少なくともわたしは日葵ちゃんと高校時代にいろいろあったし……。
涼くんやみくりちゃんはどうなんだろう。
二人は日葵ちゃんのこと、ずっと明るくて優しい女の子だって思って仲良くしてたのかな?
聞いてみたいけれど、聞くのが怖いという気持ちがあった。
「あのさ、提案なんだけど」
みくりちゃんが右手を挙げる。みんなが彼女のほうにじっと視線を注いだ。
「なんだ、みくり」
「日葵がどこに行っちゃったのか手がかりを探すために、もっと堅実な方法を取らない?」
「堅実な方法? どんな?」
「日葵との思い出のある場所を巡る、とか。小、中、高校、みんなで遊びに行った場所。いろいろあるでしょ。その場所に行けば日葵との思い出も蘇ると思うし、本当の日葵のことが、何か分かるんじゃないかな」
“本当の日葵”。
みくりちゃんも気づいてるんだ。
わたしたちの見ていた日葵ちゃんは、どこか仮面をかぶってたんじゃないかって。
日葵ちゃんが失踪したのは、彼女が笑顔の裏に隠していた悩みや苦しみに原因があるんじゃないかって。
日葵ちゃんに苦しみを与えたのは、わたしだ。
みくりちゃんはわたしが日葵ちゃんと一悶着あったことを知らない。他の二人もきっと知らないだろう。
日葵ちゃんとの思い出の場所を巡ることで、わたしが彼女にしたことが露呈してしまうかもしれない——そう思うと、背筋に嫌な汗が流れた。
「いいんじゃね? 思い出の場所巡り。どうせ他にできることはなさそうだし」
涼くんがみくりちゃんの提案に賛成する。
「どうする? 陽太」
みくりちゃんが黙りこくっている陽太くんに返事を促した。
「あ、ああ、そうだな。正直俺もみんなの話を聞いてから、途方に暮れていた。手がかりらしいものはなかったし、この先どうすればひまのこと見つけられるのかって……」
「そりゃあんな尋問みたいな会話で手がかりなんて出ねーっつーの。やると決まったらさっさと実行しようぜ。いつにする?」
珍しく涼くんのほうが陽太くんに呆れながら、みんなに日程を確認した。
「学校に行くとなると、お盆明けのほうが良くない?」
「それもそうだな。じゃあ、お盆明けの八月十八日でどう?」
「了解」
涼くんの提案に全員が頷く。今日は八月八日だから十日後だ。それまで、なんとか心を落ち着けよう。きっとみんな同じ気持ちなんだろう。わたしたちの間には、いまだ言いようもない緊張感が横たわっていた。
そんな話は陽太くんにはしなかった。ただ卒業式でお別れをしたよ、と告げると表情を曇らせたまま「そうか」と頷いただけだった。
わたしたち三人と話をした陽太くんは何を思ったんだろう。抜け殻のような表情で、「みんな、いろいろ教えてくれてありがとう」と表面上だけで小さく頭を下げた。
「で、何か分かった?」
みくりちゃんが苛立ちを滲ませながら訊く。
「みんなの話を聞いても……正直ひまが今どこにいるかっていう手がかりは見つからなかった」
消沈した様子で答える陽太くん。これには涼くんも深いため息をついた。
「そりゃそうだろっ。まだおれたちが日葵を隠したとでも思ってるのか?」
「いや……今は思ってない。でも、この中の誰かがひまの失踪に関係してるとは思ってる」
「……」
陽太くんは頑なに、わたしたちの中に犯人がいることを疑ってやまない。でもまあ、それも仕方ないと思う。だってあんな手紙がタイムカプセルから出てきたんだもの。それに、少なくともわたしは日葵ちゃんと高校時代にいろいろあったし……。
涼くんやみくりちゃんはどうなんだろう。
二人は日葵ちゃんのこと、ずっと明るくて優しい女の子だって思って仲良くしてたのかな?
聞いてみたいけれど、聞くのが怖いという気持ちがあった。
「あのさ、提案なんだけど」
みくりちゃんが右手を挙げる。みんなが彼女のほうにじっと視線を注いだ。
「なんだ、みくり」
「日葵がどこに行っちゃったのか手がかりを探すために、もっと堅実な方法を取らない?」
「堅実な方法? どんな?」
「日葵との思い出のある場所を巡る、とか。小、中、高校、みんなで遊びに行った場所。いろいろあるでしょ。その場所に行けば日葵との思い出も蘇ると思うし、本当の日葵のことが、何か分かるんじゃないかな」
“本当の日葵”。
みくりちゃんも気づいてるんだ。
わたしたちの見ていた日葵ちゃんは、どこか仮面をかぶってたんじゃないかって。
日葵ちゃんが失踪したのは、彼女が笑顔の裏に隠していた悩みや苦しみに原因があるんじゃないかって。
日葵ちゃんに苦しみを与えたのは、わたしだ。
みくりちゃんはわたしが日葵ちゃんと一悶着あったことを知らない。他の二人もきっと知らないだろう。
日葵ちゃんとの思い出の場所を巡ることで、わたしが彼女にしたことが露呈してしまうかもしれない——そう思うと、背筋に嫌な汗が流れた。
「いいんじゃね? 思い出の場所巡り。どうせ他にできることはなさそうだし」
涼くんがみくりちゃんの提案に賛成する。
「どうする? 陽太」
みくりちゃんが黙りこくっている陽太くんに返事を促した。
「あ、ああ、そうだな。正直俺もみんなの話を聞いてから、途方に暮れていた。手がかりらしいものはなかったし、この先どうすればひまのこと見つけられるのかって……」
「そりゃあんな尋問みたいな会話で手がかりなんて出ねーっつーの。やると決まったらさっさと実行しようぜ。いつにする?」
珍しく涼くんのほうが陽太くんに呆れながら、みんなに日程を確認した。
「学校に行くとなると、お盆明けのほうが良くない?」
「それもそうだな。じゃあ、お盆明けの八月十八日でどう?」
「了解」
涼くんの提案に全員が頷く。今日は八月八日だから十日後だ。それまで、なんとか心を落ち着けよう。きっとみんな同じ気持ちなんだろう。わたしたちの間には、いまだ言いようもない緊張感が横たわっていた。



