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 西山城小学校から桜田(さくらだ)中学校に入学したとき、あたしは“デビュー”を果たした。高校デビューならぬ中学デビュー。小学校ではクラスでも中の上ぐらいの立ち位置にいてそれほど不自由を感じたわけではないけれど、いつも日葵や璃子たちとばかりつるんでいたせいか、他に仲の良い友達がいなかった。中学では友達をたくさんつくりたい——その一心で、ショートカットにした髪の毛を外ハネになるように巻いて、ママに買ってもらった色付きリップをほんのり唇に乗せて登校した。部活は陽キャが集まるバスケ部に入って、クラスでは真っ先に気が強そうな女の子たちのグループに入った。校則違反と知りながら、グループの女の子とトイレで流行りのメイクを施してみたり、みんなが推しているK-POPアイドルグループを応援したり。興味のないことでも、常にアンテナを張って明るくてみんなの輪の中心にいる自分を演じた。その努力の甲斐もあって、あたしはクラスでカースト上位に君臨することに成功した。
 あたし、今すごく良いんじゃない? 
 友達もたくさんいるし、みんなの中心って感じがする。
 小学校の頃に憧れていた日葵の立ち位置に自分がいると分かって、とても興奮した。
 授業はまともに聞かないから先生には注意されてばかりだけど、クラスのみんなは慕ってくれる。少なくとも、あたしが仲良くしたいと思う一軍女子たちは。

「みくりってさ、すごい背高いよね。何センチ?」

 そんなあたしにもコンプレックスがあった。
 それは、同級生の他の女の子たちに比べると背が高すぎることだ。中学二年生で、一六五センチもある。このまま成長したら一七〇センチまで到達しそう。バスケをやっているせいか、中学に入ってからぐんぐん背が伸びていく。ママもパパも身長が平均より高いから、あたしも長身になるのは疑いようのない事実だった。
 女の子は華奢で小柄なほうが絶対可愛い。
 それこそ、日葵みたいに……。
 中学二年生の頃、日葵と同じクラスだった。他の幼馴染メンバーとは別のクラスだ。だが、当時はもうあたしも日葵とは学校でほとんどつるんでいなくて、派手な女子とばかり行動をともにしていた。そんな日葵は、時々あたしに何か言いたげな様子で視線を送ってくる。あたしは日葵とあまりつるまなくなったとはいえ、日葵のことが嫌いになったわけではなかった。

 むしろ、昔から変わらず日葵のことが好きだった。
 いや、好き以上に憧れがあった。

 最初は気にしないようにしていた。日葵の透き通るような白い肌や華奢な体つき、大きくて愛らしい瞳。女の子らしい、少し小さめな身長。さらさらストレートの髪の毛には天使のツヤリングがくるんと輝いている。
 小学生の頃に比べて、可愛らしさに加えてさらに美しさや品が備わりつつある日葵。
 日葵が笑うと周りに花が咲いたようにその場の空気が明るくなる。それでいて誰に対しても分け隔てなく優しく接していた。中学になっても日葵の圧倒的な華やかさは健在で、小学校が違っていた子たちも、みんな日葵の虜だった。
 あたしの所属していたグループの子たちも、口には出さないけれど自分たちとは格の違う日葵の上品なオーラに圧倒されていた。あたしと同じように憧れを抱いていたに違いない。あたしたちのグループが赤い炎なら、日葵は強かに燃える青い炎のようだった。見た目は落ち着いているように見えるけれど、実際は赤い炎よりも熱く燃えている。日葵の心の中では、友達を想う気持ちがずっと強く燃え続けているように感じた。みんなは日葵のことをひまわりのようだと言うけれど、あたしにとって日葵は青い炎だった。
 ある日、グループの一人が「日葵もうちらのグループに入れようよ」と提案してきた。今思えば、浅はかすぎる考えだ。「うちらのグループに入れよう」と言っている時点で、日葵が自分たちより下にいると見下している。そして、その言葉を聞いた他のみんなも、同じように日葵に憧れを抱きつつ、あえて日葵が自分たちよりも下にいると見せかけようとしていた。