『お前たち、最低だな』

 ドス黒い声でそう吐き捨てた陽太の暗いまなざしが、あたしの脳裏に焼きついている。
 みんなでタイムカプセルを開けてから一週間が経った。その間、あたしはみんなと会うことはなかった。日葵を貶めるような手紙を書いた人間がこの中にいると思うと、怖かったから。でも、一週間が経ちみんなの頭も少しずつ冷えてきた今日、葉月を除いた四人で再びファミレスに集まった。

「単刀直入に言う。誰があんな手紙を書いた?」

 お店に入り、それぞれにコーヒーや紅茶、ジュースを注文するや否や、陽太の鋭い声が響き渡る。幸いお店は子ども連れや若いカップル、ご年配のマダムたちで埋め尽くされていてガヤガヤとしていた。あたしたちの話し声はたぶん、他のテーブルには聞こえないだろう。

「誰がって……そんなのこの場で聞いて、名乗り出るわけないでしょ」

 あたしは即座に答える。今日の陽太はみんなと会った瞬間からずっと、疑り深い視線をあたしたちに向けている。いや、この間あの手紙を見つけてからだ。

『日葵の笑顔はぜんぶうそ。いつわりの笑顔でみんなをだましてる』
 
 あの手紙を目にした時、全員の表情が一瞬にして凍りついた。もちろんあたしも。誰がこんな手紙を書いたのか——と驚いた気持ちは半分あった。けれどそれ以上に、その手紙の一文があたしの胸に深く突き刺さった。
 身に覚えがある(・・・・・・・)
 手紙の一文が、あたしにはどうしても他人事とは思えなかった。
 もちろん書いたのはあたしじゃない。でも、いつもひまわりのように明るい日葵の笑顔を、心のどこかで嘘じゃないかと疑っていた自分がいるのだ。

「みくりはそう言うけどさ、素直なやつならここで名乗り出るだろ。ほら、答えろよ。誰かひまをあんな目に遭わせたんだ?」

 棘のある陽太の声が四人の空気を引き裂く。
“誰がひまをあんな目に遭わせたんだ”というのは、日葵を消したのは誰か、と言いたいんだろう。

「ちょっと待てよ。日葵がこの中の誰かのせいでいなくなったなんて、本気でそう思ってるのか?」

 すぐさま涼が吠える。涼も先週は気が動転して陽太が日葵を消したと叫んでいたはずだが、一週間が経って冷静になったんだろう。あたしも璃子も同じ気持ちだ。

「十中八九、ひまがいなくなったのはあの手紙を書いたやつのせいだろ。ひまは手紙の主に追い詰められて自ら姿を消したんだ。じゃなきゃ、あの明るくて真っ直ぐなひまが、理由もなく消えたりしない。いや、もしかしたらこの中の誰かに、強引に消されたのかもしれないな(・・・・・・・・・・・・)

「……」

 一人、暴走を始める陽太を、呆気に取らながら見つめるあたしたち三人。今の彼は何を言っても聞く耳を持たない気がする。
 陽太が日葵のことをずっと好きだったというのは全員が知っている。陽太のその深すぎる愛情が彼をここまで怒らせているのだ。分かっているからこそ、誰も何も言えなかった。

「……はあ、もう分かったよ。誰も素直に名乗り出ないんだな。こうなったらもう、一人ずつ尋問タイムだ。今から俺の家に行くぞ」

「はあ? 尋問? お前、正気か?」

 涼が呆れた声を上げる。見れば、璃子も眉根をぎゅっと寄せて陽太の発言に疑問を抱いている様子だった。もちろんあたしだってそう。同級生の友達から尋問なんて、気分が悪い。

「いいから来るんだ。逆らったらそいつを犯人とみなす」

「犯人」などとういう物騒なワードを陽太が口にした途端、全員が顔を見合わせて押し黙る。陽太とあたしたちの間には見えない壁があって、その壁を突き破ろうものなら、速攻陽太に警察に突き出される——そんな想像をして悪寒が走った。