翌日、日葵は学校に来なかった。
放課後に日葵の家に訪ねると、彼女の母親——おばさんが、日葵が発熱していると教えてくれた。
「昨日怪我したところが炎症を起こしてるみたいなの。しばらく安静にしてたら治ると思うけど、陽太くんには心配かけるわね」
「いえ、とんでもないです。その……俺のせいで、ごめんなさい」
ショックだった。おばさんから聞かされた事実が俺の胸をぐりぐりと刃で突き刺すような痛みを運んだ。それでも、いま発熱で苦しんでいる日葵に比べたら、俺のこの胸の痛みなどたいしたことない。何もできない自分が情けなく、おばさんの前に立っていることすら苦しかった。
それから数日間、日葵は学校を休み続けて、一週間後にようやく再び登校した。
昼休みに隣のクラスの彼女の様子を見に行くと、いつものように友達に囲まれておしゃべりに花を咲かせる彼女の姿があった。
「ひま」
教室の外から彼女の名前を呼ぶ。日葵が気づいて俺のほうを振り返った。そして、すぐに目の前の友達に「ちょっとごめんね」と断りを入れて、俺のほうへと来てくれた。
「陽太くん、心配かけてほんっっっとうにごめん!」
パン、と両手を合わせてすまそうに眉を寄せる。その仕草に驚かされて、「いや」と
思わずたじろいだ。
「謝らなくちゃいけないのは俺だよ。俺のせいで辛い思いさせてごめんな」
今度は日葵がふるふると首を横に振る。
「これぐらい大丈夫だよ。それより私は陽太くんが私を心配しすぎて干からびてないかのほうが心配だった」
「心配の心配なんかするなよ」
「だって本当に心配だったんだよ。陽太くん、私のこといつもめちゃくちゃ構ってくれるじゃん。それぐらい、考えてくれるから……」
最後のほうは上目遣いになって、頬もほんのり赤く染まっていた。そんな日葵の姿を見た瞬間、俺の中で愛しい、という感情が込み上げる。
なんて健気で優しい子なんだろう。
そんな子を、俺は傷つけてしまった。
今も彼女の腕に巻かれている包帯が、彼女の傷の大きさを物語っている。俺はそんな彼女の腕にそっと触れる。一瞬日葵がぴくんと身体を揺らしたけれど、すぐに嬉しそうに目元を細めた。
「俺……これからはちゃんと、ひまのこと守るよ」
学校の教室の入り口で話すことではない。と、分かってはいるのに、あふれてくる彼女に対する想いを、自分の中に押し留めておくことができなかった。
日葵は驚いたように何度も目を瞬かせる。そして、はらりと頬を綻ばせた。
「嬉しい」
その一言が、むしろ俺にとって嬉しくて彼女を抱きしめたくなった。さすがに学校でそんなことをするわけにはいかず、さらにそこまでの勇気はなかった。
日葵のことが好きだ。
彼女をこの先ずっと守ってやりたい。
幼稚園の頃に自覚した気持ちが、いよいよ大きく膨らんで、その日の夜はなかなか眠りにつくことができなかった。
俺の日葵への気持ちは、小学校を卒業しても、中学でそれぞれに友達の輪が広がっても、受験勉強を頑張って日葵と同じ高校に進学しても変わらなかった。その頃になると、お互いにもうなくてはならない存在になっていたし、日葵も少なくとも俺に対して他の友人とは違う感情をもってくれていたと思う。はっきり彼女の口から聞いたわけじゃないけど、でも長年一緒にいたら分かるのだ。彼女が俺の隣を歩いているときに、それとなくパーソナルスペースに踏み込んでくるあの感じ。絶対に、他の友人とは一線を画しているという自信があった。
そのまま、俺が大人になるまで——いや、大人になっても日葵のことを守ってやりたい。
何度も彼女に想いを伝えようとしたけれど、長年一緒にいたせいで逆に勇気が出なかった。
こんな臆病な俺に、日葵はいつか愛想を尽かしてしまうかもしれない。
俺以外にもっと魅力的な男を見つけてその人のところへ行ってしまうかもしれない。
幼馴染メンバーで言えば涼だっている。本人の口からは聞いていないけれど、涼も日葵のことを好いているらしかった。
このままうだうだしていたら、日葵を取られてしまうかもしれない——と何度もこわくなったはずなのに、やっぱり彼女に想いを伝えられない自分を情けなく思った。
放課後に日葵の家に訪ねると、彼女の母親——おばさんが、日葵が発熱していると教えてくれた。
「昨日怪我したところが炎症を起こしてるみたいなの。しばらく安静にしてたら治ると思うけど、陽太くんには心配かけるわね」
「いえ、とんでもないです。その……俺のせいで、ごめんなさい」
ショックだった。おばさんから聞かされた事実が俺の胸をぐりぐりと刃で突き刺すような痛みを運んだ。それでも、いま発熱で苦しんでいる日葵に比べたら、俺のこの胸の痛みなどたいしたことない。何もできない自分が情けなく、おばさんの前に立っていることすら苦しかった。
それから数日間、日葵は学校を休み続けて、一週間後にようやく再び登校した。
昼休みに隣のクラスの彼女の様子を見に行くと、いつものように友達に囲まれておしゃべりに花を咲かせる彼女の姿があった。
「ひま」
教室の外から彼女の名前を呼ぶ。日葵が気づいて俺のほうを振り返った。そして、すぐに目の前の友達に「ちょっとごめんね」と断りを入れて、俺のほうへと来てくれた。
「陽太くん、心配かけてほんっっっとうにごめん!」
パン、と両手を合わせてすまそうに眉を寄せる。その仕草に驚かされて、「いや」と
思わずたじろいだ。
「謝らなくちゃいけないのは俺だよ。俺のせいで辛い思いさせてごめんな」
今度は日葵がふるふると首を横に振る。
「これぐらい大丈夫だよ。それより私は陽太くんが私を心配しすぎて干からびてないかのほうが心配だった」
「心配の心配なんかするなよ」
「だって本当に心配だったんだよ。陽太くん、私のこといつもめちゃくちゃ構ってくれるじゃん。それぐらい、考えてくれるから……」
最後のほうは上目遣いになって、頬もほんのり赤く染まっていた。そんな日葵の姿を見た瞬間、俺の中で愛しい、という感情が込み上げる。
なんて健気で優しい子なんだろう。
そんな子を、俺は傷つけてしまった。
今も彼女の腕に巻かれている包帯が、彼女の傷の大きさを物語っている。俺はそんな彼女の腕にそっと触れる。一瞬日葵がぴくんと身体を揺らしたけれど、すぐに嬉しそうに目元を細めた。
「俺……これからはちゃんと、ひまのこと守るよ」
学校の教室の入り口で話すことではない。と、分かってはいるのに、あふれてくる彼女に対する想いを、自分の中に押し留めておくことができなかった。
日葵は驚いたように何度も目を瞬かせる。そして、はらりと頬を綻ばせた。
「嬉しい」
その一言が、むしろ俺にとって嬉しくて彼女を抱きしめたくなった。さすがに学校でそんなことをするわけにはいかず、さらにそこまでの勇気はなかった。
日葵のことが好きだ。
彼女をこの先ずっと守ってやりたい。
幼稚園の頃に自覚した気持ちが、いよいよ大きく膨らんで、その日の夜はなかなか眠りにつくことができなかった。
俺の日葵への気持ちは、小学校を卒業しても、中学でそれぞれに友達の輪が広がっても、受験勉強を頑張って日葵と同じ高校に進学しても変わらなかった。その頃になると、お互いにもうなくてはならない存在になっていたし、日葵も少なくとも俺に対して他の友人とは違う感情をもってくれていたと思う。はっきり彼女の口から聞いたわけじゃないけど、でも長年一緒にいたら分かるのだ。彼女が俺の隣を歩いているときに、それとなくパーソナルスペースに踏み込んでくるあの感じ。絶対に、他の友人とは一線を画しているという自信があった。
そのまま、俺が大人になるまで——いや、大人になっても日葵のことを守ってやりたい。
何度も彼女に想いを伝えようとしたけれど、長年一緒にいたせいで逆に勇気が出なかった。
こんな臆病な俺に、日葵はいつか愛想を尽かしてしまうかもしれない。
俺以外にもっと魅力的な男を見つけてその人のところへ行ってしまうかもしれない。
幼馴染メンバーで言えば涼だっている。本人の口からは聞いていないけれど、涼も日葵のことを好いているらしかった。
このままうだうだしていたら、日葵を取られてしまうかもしれない——と何度もこわくなったはずなのに、やっぱり彼女に想いを伝えられない自分を情けなく思った。



