夕食時。今日もちゃぶ台で顔を合わせながら小説について議論してると、暗い玄関よりダンダンダンと音がする。
 これは訪問者が家主を呼ぶ音。呼び鈴みたいなものだ。
 当初は身をすくませてしまったけど、今は慣れた。そのはずだったが、今はビクッと体を震わせてしまう。
 何かが違う。……これって、まさか。
「あ、誰か来たな」
 体が硬直してしまった私は、大志さんが玄関に向かおうとする気配にようやく気付く。止めないと。
「待って! 出ないで!」
 気持ちのまま後ろから抱き付いてしまった。
「え。ちょっ、和葉!」
 声が一段階高くなり、声が途切れ途切れになる。明らかに戸惑っていると分かるけど、それでも離さない。
「行かないで、お願い……」
「そうはいかんやろ? どうしたん?」

 ダンダンダン。
 そんなやり取りをしている間に、どんどんと大きくなる戸を叩く音。あまりの不穏さに体がガタガタと震えるけど、離さない。力の限り、必死に抑えた。
「……覚悟はしてたよ」
 回していた手をそっと離した大志さんは、玄関に向かって行く。
「待って! 出たらだめ!」
「和葉は奥に行ってなさい。大丈夫だから」
 初めて見た精悍とした表情。標準語で訛りもない、話し方。これが公的な場で出す顔なのだろう。
 押し寄せてくる恐怖に、体が硬直する。
「遅くなりました。今、開けます!」
 大志さんは戸に伸ばした手を一旦引っ込めたかと思えばこちらに振り返り、部屋の奥に指差す。話を聞くなと言いたいのだろう。
 私は頷き、奥に足を進める。だけど意識はそっちに向き、気付けば体まで動いていた。
 ガラガラガラと音を立てて開かれる玄関には、やはり村の人ではなく制服に身を包んだ役所の職員が立っていた。
「召集令状をもってまいりました。おめでとうございます」
 渡される赤紙。まじまじと、それを見つめる背中。
 ねえ、今あなたはどんな表情をしているの? どんな気持ちなの?
「ありがとうございます」
 公的な場での声では、あなたの気持ちは分からないよ。