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橋を渡り、新しい世界に足を踏み入れた。

洋風建築に、ランプに似た高い街灯。


男性が駆ける人力車、そこに腰かけるのは洋装の男性と和服の女性。

すれ違う人々は和服が多かったが、時々スタイルの強調される格好をした男性とすれ違い、規律正しい凛々しさに胸がワクワクした。


(おもしろい! あの恰好、緋月さんが着た方が似合いそう!)

「緋月さん! あれはなんて言う恰好なんですか?」

「あれは……軍人ですね。剣士のようなものです」

「剣士……。ではあちらの女性のような恰好は?」

こっそり指をさした先にいたのは洋装だろうが、着物と違って膨らみが大きい。


「ドレス、と呼ぶそうです。上流階級の方しか着ません。……着てみたいですか?」

ドキッと面を食らって慌てて首を横に振る。

「いえっ! 見たことのないものを見るのは新鮮だなって思っただけです!」

ここは自分の知る時代ではないとワクワクが止まらない。

何もかもが新しく、発展を遂げた地だと理解した。


(あ……)

緋月から離れて私はショーウィンドウに飾られたアンティーク細工を眺める。

「何か気になるものがありましたか?」

緋月の声かけに私はうなずき、ガラス越しに飾られた金色の丸い”それ”を指さした。

「あの丸いの。針が動いてるから不思議で」

「あぁ、あれは”懐中時計”ですね。時間を刻むものです」

知らないものを知っていくと自分の中が満たされていくようだ。

キレイな金色の枠組みに、細やかな歯車がかみ合って針を動かしている。

世の中には面白いものがいっぱいだと好奇心にニコニコしていると、彼が私の手を引いて店に入った。


「ショーウィンドウの時計。いただけますか?」

「えっ!? 緋月さん!?」

どう見たって高そうなそれを彼はあっさり購入してしまう。

「いい」と首を横に振っても彼はテキパキと店主とやりとりを済ませ、私の手のひらに懐中時計を置いた。

「プレゼントです。俺が時羽様に贈りたいだけなのでお気になさらないでください」

「……ありがとう」

大切にしよう。

私は懐中時計を胸の前で抱きしめると、袴の結び目にくくりつけた。


店を出た後も彼に色んな質問をし、あふれ出る好奇心に笑顔もあふれた。

キョロキョロしながら歩いていると、彼が私の袖を掴んで柔和に微笑んだ。


「お腹、空きませんか?」

そう問われてお腹は素直にグゥーっと音を鳴らした。

顔に熱が集中してうなずいた後、袖の中で指先を丸めた。

「時羽様の好きそうなもの、たくさんあると思いますよ」

「私の好きな……?」

彼のおだやかな微笑みに、率直に彼の顔は好きだと自覚した。

それはそうとして、私は何が好きで心をときめかせていたのだろう。

新しい光景は好奇心は揺さぶられるも、好きなものとなると目に止まるものは違った。


(とても華やかだけど、私には遠い気がする)

それよりは川沿いを歩いて見つけた小さな花の方が愛らしい。

あれはなんという花だろうか、とそちらを考えている方が身近で楽しい気がした。