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それから里から少し離れた場所に建つ平屋に立ち寄った。

中には老夫婦がおり、彼が老夫婦にいくつかお願いごとをするのを眺めていた。

老夫婦に招かれて中に入り、囲炉裏の前にちょこんと正座した。

彼は気難しい顔をしてうっとおしそうに髪をかき上げる。

その姿が艶めいて見えたので、彼を見る目がそもそも色気づいていると恥じらいを覚えた。

心の中でアタフタしていると、私の心を体現したかのように老夫婦が右往左往していた。

見ているだけで気にかかってしまい、ソワソワしているうちに私は立ち上がっていた。

お茶の準備をする老婆に歩み寄り、ドキドキする胸に手をあてて口を開いた。


「あの、何かお手伝いしますか!?」

「へっ?」

唐突な申し出に老婆の声がひっくり返る。

何でもいいから老夫婦の手助けになればという一心だった。


「……でしたらお茶を運んでいただけますか?」

老婆はおだやかに微笑んで、湯吞みののったお盆を渡してくる。

私は老婆の親切に笑みがこぼれだす。


「緋月さん。お茶を用意いただきました。あたたかいうちにどうぞ」

スッと差し出せば彼は口をポカンと開いて目を丸くしていた。

「……ありがとうございます」

すぐに肩をおろし、フッと短く笑うとお茶を一口飲んだ。

それが嬉しくて、私も一口飲んで染み渡るあたたかさにホッと息をついた。

その後、あたたかい湯で身体の汚れを落とし、新しい着物に袖を通した。

薄紅色の着物に浮かれ、髪もキレイに櫛で梳いてもらい、愛らしい花飾りを添えてもらった。

「わぁ、かわいい。ありがとうございます」

老婆はにっこりと笑うと、囲炉裏の前で待つ彼に声をかけ奥へと引っ込んだ。

彼は立ち上がるもピタッと動きを止めてしまったので、私は足早に彼の前に寄る。

「着物、ありがとうございます」

「えっ……」

「緋月さんが全部用意していたと。だからありがとうございます」

「……はい」

しばらく呆けてからの気弱な返事。

お礼を言われるようなことでもないと思っていたのだろう。

つくづく疑問は湧いてくるが、彼の気づかいが何よりもうれしくて、感謝の気持ちを最優先にしたかった。

「お礼、どうしましょう……?」

「お礼?」

「今の私は姫ではないんでしょう? だったら緋月さんに助けてもらってばかりなのはおかしいなって……」

姫であったならば下仕えとして、助けるのは自然のことかもしれない。

だが今は対等なはずだと、いたたまれない想いであった。


「では、緋月と呼んでください」

「?」

「一度で構いません。どうか……」


それはとても切実な想いで。

彼が目を反らせば顔に影がかかり、ほんのり頬が赤く染まって見えた。

質問をすればするほど彼の反応が気になって、逸る気持ちが抑えられない。