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私は裸足だったので、彼が背におぶさるようにとしゃがみ込む。

さすがにそれは戸惑われたので断ろうとしたが、彼は譲る気がないようだ。

裸足では歩くのも難しいだろうと、彼はやや強引に私を背負った。

更に上着まで貸してくれて、彼の温もりも合わさったことで寒さは感じなかった。

それから照明を頼りに山を下りていく。

”姫”と呼ぶのは私がとある国の姫君だったから。

口調が敬語なのはその国の召使いだった名残りと語った。


「私は今も姫なんですか?」

「……いいえ。国はもうありません。ですが、俺にとって時羽姫は姫です」

名前を呼ばれると胸がこそばゆくなる。

私は彼に名前を呼ばれることが好きだったようだ。

ますます彼との関係が気になったが、今は彼が話す気がないこともわかっていたので一旦は引っ込めることにした。


(姫ということは教えてくれた。具体的に聞けば答えてくれるかも)

ただ今の私は空っぽすぎるので、彼の言葉を拾って埋めていくしかなかった。


「その明かりはなんて言うのですか? はじめて見た気がして」

「これはランプといいます」

「ランプ……。キレイね」

だが明かりを受けて輪郭の浮き出た彼の方がキレイに見えた。

後ろから見える彼の横顔は鼻が高く、まつ毛も長い。

彼の容姿を把握して、自分がどんな見た目なのかが気になりだした。


(髪……白い? 光ってるの?)

キラキラとした光の粒があり、白い髪はまるで雪のようだ。

しかしその髪色は馴染みがない気がして、へそ当たりまで伸びる髪を一束掴んだ。


「あの……私の髪、前からこんなのでしたか?」

「ん?」

「白く見えるような……」

こんな風に光る髪はおかしいのでは、と悶々としていると。

「キレイですよ。あの青い月に似てますね」

「月……」

「もったいないですが、里では隠しましょう。目立ってしまいますから」

やはりこの髪色は変なのだと気持ちが沈む。

落ちてきそうだと思った月はいつの間にか遠ざかり、空は少しずつ色を薄くしていた。

「俺以外には見せないでくれると助かります」

「どうして?」

「妬けてしまいますから」

彼は気づいていないだろう。

遠回しに髪を見せるなと言っているようだが、さらっと褒めていることに。

迷いのない発言に頬が熱くなり、口角が上がるのを抑えられなかった。

私が誰であろうと、この距離感は嫌じゃない。

むしろ人目を気にせず、遠慮をしないで彼と向き合えることがうれしいと知った。


***


山のふもとに下りた頃、空は群青色が溶けだして白い静けさが際立っていた。

彼は私をおろすと、振り返って私を見下ろし目を見開いた。

あまりに凝視されるものだから、気恥ずかしくなって目を反らそうとしたところで彼の手が私の髪をすくった。

「髪、戻りましたね」

「あ……」

先ほどまで白銀に光っていた髪が、色あせたように濃い藍色になっている。

髪色が変わるなんて、と錯覚を疑い目元を擦ってみるが変わらない。

新たな疑問が湧いて出て、ついムッとして腕をピンと張った。

「知ってたんですか?」
「いえ、今知りました」

意味がわからないと思いつつ、知らなかったのなら追及しようがない。

この髪色になってから彼の目に優しさが増して、ボーッと見つめてしまう。

(やっぱりキレイなんだなぁ。目尻がスッとしてて。それにずいぶんと背が高い)

彼が高いのか、私が小さいだけなのか。

顔を上に傾けなければ彼の顔がちゃんと見えないので、つい背伸びをしてしまった。