『健気なものよ。一か月、あやかしとして目覚めるお前と過ごしたいと』


最初に告げられた約束の一か月。


『長い間、この男は身体の主導権を渡そうとしなかった。だがもう耐えられなかったのだろうな。私に一か月の条件を突きつけてきた』


その言葉に私は胸を締めつけられる想いで、鬼に飲まれた彼を見据えた。


『すでに国を滅ぼした身だというのに。結局また身体を受け渡すバカな男だ』

「ふざけないで!!」

彼を侮辱する鬼に私はカッとなって走りだし、彼の頬に手のひらを横に振る。


――スパッ!

「うあっ!?」

とげとげしいのは身体だけでなく、硬化した皮膚が私の手を切りつけた。

ゲラゲラと赤い月に向かって高笑いをする鬼に、私は血染めの手を握りしめる。


『さぁ、どうする? お前のいとしい男はもういない』


いつもそうだった。

何度繰り返しても彼を救えないことに絶望してきた。

それが悔しくて、私は青い満月に希望を託す。


ツクヨミとの契約。

記憶と時間を代償に、私は”タイムリープ”の力を得た。

絶望しては運命を変えたいと願い、彼を助けるためにタイムリープを繰り返した。


タイムリープの代償として、記憶をなくすのは二回。

一回目はタイムリープをして過去に戻った時。

二回目はツクヨミと契約し、長い眠りについたあと、あやかしとなって青い満月の下で再会する時だ。


「私が選ぶのは”運命を変える”道! 今度こそ、彼と想いをかわすために!」


タイムリープを繰り返すことで時間の歪みを発生させる。

徐々に時間の歪みが大きくなり、本来の月の周期にズレを発生させた。


【月の満ち欠けは29.5日の周期で巡る】

たった【0.5日】のズレ、それらが噛みあって運命の歯車は動き出す。

何度も何度もループを繰り返し、時間の歪みを広げ、”あと一回”で時が動くところまできた。


(次が最後。これで私は後戻りが出来なくなる)

タイムリープが終わり、青い満月となれば彼を救うチャンスが出来る。

長い時間をかけて得たズレで一度きりの奇跡に手を伸ばす。

(私は鬼となる彼の運命を変えたい)

(もう一度、時を越えて彼との未来を手にしたいんだ!!)


「これが最後のタイムリープよ!」


私は彼を助けるために、時間を繰り返した。

彼からの”愛してる”を聞くために。

”愛してる”と伝えるために。


「時を巻き戻して! ツクヨミーーッ!!」


月に向かって叫び、歯車が逆回転して時間が巻き戻る。

タイムリープの代償に、私は記憶を失い、また彼と巡り会う。


卯月の二十九日を末日に伸ばすため。

赤い月を”青い月”に変え、彼との未来を切り開くために。


――最後のタイムリープを行ない、過去に戻ると記憶はなくなった。

タイムリープをして記憶をなくした私の、青い月となる時系列がはじまろうとしていた。


【これは彼を裏切った私の”運命を変える”物語】

【何度も繰り返した時の中で、少しずつ時間を歪ませて”青い月の夜”を目指すお話】



<時系列A『赤い月』 完>

<続きは時系列B『青い月』いつかまた、出会えるまで>