「時羽様っ……!」

突如、彼は血相を変えて私の腕を掴み、路地裏に引っ張っていく。

「緋月さん? 急にどうし……」

彼は余裕がなさそうで、急いで外套を脱ぐと私の頭にのせてホッと息を吐く。

あまりの慌てように首を傾げると、肩から白銀色の髪が前に流れた。


「髪が……」

「昨晩もそうでしたか?」

あまり気にしていなかった、と言った方がいいだろうか。

そういえば月を眺めていたとき、自分まで輝いているような気持ちになっていた。

髪がキラキラしていて……それが月の光だと思っていた。

まさかと思い、私は髪を一束掴んで青ざめた。


「昨晩は月を見ていて……。その後すぐに寝ちゃって……」

こんなにもわかりやすい変化なのになぜ気づかなかったのか。

月に酔い、安心して鈍くなっていたのかもしれない。


「月……」

彼は路地裏から空を見上げ、黙り込んでしまう。

同じように空を見上げれば夕暮れに溶け込んだ群青色に白い月が浮かんでいた。


「宿に行きましょう。髪はすみません。隠していただけますか?」

「は……い……」

この髪色は奇異なものだろう。

街を歩いていてもこのような髪をした人はいなかったと、自分に疑問を抱いて一晩過ごした。


***

翌日、彼は苦肉の策として夜は布で髪を隠してくれと頼んできた。

私の違和感なんて吹き飛ばしてしまうほど、彼がショックを受けているのでつい笑ってしまう。

私のことを私以上に考えてくれる彼の想いがうれしかった。