青い月に誓った。
暗闇の中、私は開けていく世界に手を伸ばす。
その先には落ちてきそうなほど大きな青色の月があった。
「知ってる」
不思議と月を見て最初に思ったことはそれだった。
真っ白な着物は月に向かって這って出たため、土で汚れてしまった。
月を見て、光を追って前を見る。
そこには目を見開いて私を見つめる美しい殿方がいた。
「時羽姫……」
彼は私を見てそう呼んだ。
落ちついたやさしい声は耳に心地よい。
聞いたことがあるようなないような、懐かしい感覚と違和感に首を傾げた。
「誰?」
彼に懐かしさを覚えながらも、誰とハッキリ言えなかった。
月明かりを背負った彼は私の問いにひどく傷ついた顔をする。
青い月と同じ色をした瞳が特別キレイだと思った。
彼は首を横に振ると私の目の前に膝をつき、切なさを隠し切れない微笑みを浮かべた。
「覚えていらっしゃらないのですね……」
その小さな呟きに私は答えられない。
戸惑いに怖気づいていると、彼の指先が私の頬をぬぐった。
土埃が指先を汚したと気づき、私は慌てて身体を起こした。
「ごめんなさい! あの、汚す気はなくて……!」
汗がにじみだした手で彼の手を掴み、余計に汚れをつけてしまったと焦って手を引っ込めた。
目を丸くする彼は「ふっ」と息を漏らすように微笑んだあと、両手を前に差し出してきた。
「立てますか?」
青白い光を浴びる彼に見惚れ、私は引かれるままに両手を彼の手に乗せた。
ゆっくりと引かれ、大地にかかとをつけるとようやく自分がここに生きている感覚を得た。
月明かりだけにしてはよく顔を見える、と思えば近くに提灯のようなものが置かれていた。
見たこともない作りのそれをじっと見下ろしていると、彼はぐっと私の顔に距離を詰めてきた。
「あ、あの……」
幻想的な光景だからか、はたまた彼が特別美しいのか。
最初はキレイだと思ったが、距離が近づくと私とはまったく異なる肌の厚みがあると知った。
「しつこくて申し訳ございません。……本当に俺のこと、覚えていませんか?」
そう言われて私の頭には何も思い浮かばないことに気づく。
じっと彼の顔を凝視してみても、私の中は真っ暗闇で輪郭一つ浮き出てこない。
「ごめんなさい。私……」
この状態はいったい何なのか。
刻まれているのは青い月から始まって彼と目があうこの時までしかない。
「いいんです。俺にとって大事なのは姫がここにいることですから」
きっと彼は私のことを知っているのだろう。
重ねた手に指先を丸めて背伸びをした。
「あなたは誰? お名前を……。私を知っているならどういう関係で……!」
切羽詰まって彼に迫るも、背伸びは長く続けられない。
意気消沈するように再びかかとがついて、何故だか彼の表情を見るのが怖くなり顔を反らした。
暗闇の中、私は開けていく世界に手を伸ばす。
その先には落ちてきそうなほど大きな青色の月があった。
「知ってる」
不思議と月を見て最初に思ったことはそれだった。
真っ白な着物は月に向かって這って出たため、土で汚れてしまった。
月を見て、光を追って前を見る。
そこには目を見開いて私を見つめる美しい殿方がいた。
「時羽姫……」
彼は私を見てそう呼んだ。
落ちついたやさしい声は耳に心地よい。
聞いたことがあるようなないような、懐かしい感覚と違和感に首を傾げた。
「誰?」
彼に懐かしさを覚えながらも、誰とハッキリ言えなかった。
月明かりを背負った彼は私の問いにひどく傷ついた顔をする。
青い月と同じ色をした瞳が特別キレイだと思った。
彼は首を横に振ると私の目の前に膝をつき、切なさを隠し切れない微笑みを浮かべた。
「覚えていらっしゃらないのですね……」
その小さな呟きに私は答えられない。
戸惑いに怖気づいていると、彼の指先が私の頬をぬぐった。
土埃が指先を汚したと気づき、私は慌てて身体を起こした。
「ごめんなさい! あの、汚す気はなくて……!」
汗がにじみだした手で彼の手を掴み、余計に汚れをつけてしまったと焦って手を引っ込めた。
目を丸くする彼は「ふっ」と息を漏らすように微笑んだあと、両手を前に差し出してきた。
「立てますか?」
青白い光を浴びる彼に見惚れ、私は引かれるままに両手を彼の手に乗せた。
ゆっくりと引かれ、大地にかかとをつけるとようやく自分がここに生きている感覚を得た。
月明かりだけにしてはよく顔を見える、と思えば近くに提灯のようなものが置かれていた。
見たこともない作りのそれをじっと見下ろしていると、彼はぐっと私の顔に距離を詰めてきた。
「あ、あの……」
幻想的な光景だからか、はたまた彼が特別美しいのか。
最初はキレイだと思ったが、距離が近づくと私とはまったく異なる肌の厚みがあると知った。
「しつこくて申し訳ございません。……本当に俺のこと、覚えていませんか?」
そう言われて私の頭には何も思い浮かばないことに気づく。
じっと彼の顔を凝視してみても、私の中は真っ暗闇で輪郭一つ浮き出てこない。
「ごめんなさい。私……」
この状態はいったい何なのか。
刻まれているのは青い月から始まって彼と目があうこの時までしかない。
「いいんです。俺にとって大事なのは姫がここにいることですから」
きっと彼は私のことを知っているのだろう。
重ねた手に指先を丸めて背伸びをした。
「あなたは誰? お名前を……。私を知っているならどういう関係で……!」
切羽詰まって彼に迫るも、背伸びは長く続けられない。
意気消沈するように再びかかとがついて、何故だか彼の表情を見るのが怖くなり顔を反らした。