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 千早との関係はそのままなんの問題もなく続いていくはずだった。

「おうおう、仁坂高の狂犬さん」

 そんなあだ名、一体、どこからついたのか。
 バイトに行く途中で、たまたま鉢合わせした不良集団に運悪く絡まれた。
 その中には前に自分から突っかかってきて、俺に返り討ちにあった顔ぶれもいる。

 七人か、一人にそんな人数で絡んでくるって恥ずかしくねぇのか?

「お前、最近小さな犬っころと連んでるよな?」
「誰もが避ける狂犬様が楽しそうにしちゃってさ」

 ニタニタと笑いながら、口々に言ってくる不良共。

 小さな子犬……、思い当たる人間がいるとすれば、千早だ。
 俺に手も足も出ないからって、千早にちょっかいかけようと思ってるんじゃないよな?

「卑怯なこと、してんじゃねぇぞ?」

 威圧感を纏って、俺は不良集団を見下ろした。
 
 あいつは目が見えにくい。
 手を出されれば、なにも抵抗できないだろう。

「なに睨んでんだよ?」
「付き合い、やめたほうがいいんじゃねぇの?」
「俺たち、襲っちゃうかも」
「可愛い顔してるもんな、あいつ」
「泣かせたら、楽しいだろうな」

 ぎゃははと笑いながら、集団は俺の横を左右から通り過ぎていった。
 嫌な予感がする。