「ご両親と上手くいってないの?」
その言葉は、もっと話していいよ、と言われているみたいだった。
「……俺の家は医者家系なんすけど、優秀な兄がいるんで俺はぜんぜん期待されてなくて、こんな見た目でケンカばっかりしてると思われて、見放されてるんです。――すみません、こんな愚痴みてぇな」
話すのが、いけないことのような気がする。
だが、話すだけでなにか俺の中にある重い物が少しだけ軽くなった気がした。
「ううん、どの家庭も色々あるわよね。もし、龍生くんがなにか困ったり、誰も頼れないと思ったら、迷わず私たちを頼ってくれていいから」
顔を上げて、千早の母親はふっと笑って俺に言ってくれた。
「ありがとうございます……」
「……りゅ、せい……?」
俺が礼を言ったとき、後ろから千早の声が聞こえた。
どうやら、俺がいないことに気付いて、寝ぼけたまま階段を下りてきたらしい。
「あら、ちーちゃん、起きてきたの? めずらしい」
千早の母親が驚いたような顔をする。
いつもは寝付きがいいのかもしれないな。
悪いことをした。
「コップ置いたままでいいから、一緒に行ってあげてもらえる?」
「はい」
少しひそひそとした声で千早の母親に頼まれて、俺は千早に近付いた。
瞬間
「むぅ、寒ぃ……」
暖を取るように抱きしめられる。
もう歩く気もなさそうで、俺はガキを抱っこするように千早を抱え上げた。俺の肩に顎を乗せて、すでに千早はすやすやと寝息を立てているようだった。
「龍生くん、おやすみ」
「おやすみなさい」
軽く頭を下げて挨拶をして、千早を抱えたまま階段を上がり、自分の布団を通り過ぎて、俺は千早をベッドに寝かせた。
離そうと思ったが、どうしても首から千早の腕が取れない。
仕方なく、俺は一緒に寝てやることにした。
途中で隣に温もりがあると感じたのか、そっと千早の腕は緩んだが、もう俺は自分の布団に戻ろうとは思わなかった。
丸まった千早を静かに抱き寄せる。
――あったけ……。
目を閉じれば、気付かないうちに眠りに落ちていた。
翌朝、目を覚ましたとき、「よかったぁ、りゅうせい、まだいた」って小さいガキみたいに微笑まれたときには不思議と俺の心臓がへんな音を立てた。