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 バイトが終わり、誰もいない家に帰る毎日。
 それが今日は、明るい千早の母親がいて、温かい飯があって、ちゃんと浴槽に溜めた熱い風呂があって、俺には少し短い寝間着と布団があって……。

「どうしたの? 眠れない?」

 なんとなく寝てすぐに目が覚めて、水をもらいに下に行くと、千早の母親が日記のようなものをリビングでつけていた。

「すんません、水だけもらえますか?」
「うんうん、水ね。麦茶でもいい?」
「ありがとうございます」

 水道水でよかったのに、千早の母親はわざわざヤカンからお茶を注いでくれた。
 それから静かにもとの場所に座り直す。

「あの……、いいんすか? 俺、こんなに入り浸ってて。怖くないっすか? こんなに身体でかくて、目つき悪くて」

 日記のようなものを書く千早の母親の前に座らせてもらって、俺はそう尋ねた。

「いいのよ。ぜんぜん怖くない」
「もっと厳しく言ってくれてもいいんすよ?」

 手元から目を上げずに言われて、本心か、心配になってそんなふうに尋ねる。
 すっと、千早の母親の視線が上がった。

「これは本当に気を遣ってるとかじゃなくてね、いいのよ。ちーちゃんがあなたを受け入れてるってことは、あなたは本当にいい人だから」

 にこっと笑った笑みが日記のようなものに戻っていく。
 ただ、言葉だけは続いた。

「あの子がわがままなのは甘やかしてきた私たちのせいなんだけど、誰彼構わず拒否するから、あなたを気に入ってくれて少し安心してるの」

 話すときは人の目を見て話しなさい、なんて言うが、俺から視線を外して日記のようなものを書き続けていることが逆にこの人の安心の現れだということに気付いた。

「俺は逆に見た目で勘違いされてケンカふっかけられたり、避けられるいっぽうだったんで、正直、嬉しかったです。それに、親も……」

 口にしてみたはいいが、そこまで話していいのか? と口を閉じる。