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 それからは小動物に懐かれた気分だった。

 会えば龍生、龍生ってそばに寄ってきて、会いたければ、俺の働いているバイト先まで一人で来た。
 今日も放課後にファッションストリートにあるカフェでバイトしていると、千早が客としてやってきた。

「危ねぇから一人で来んじゃねぇって言ってんだろ?」

 ここの通りは車が通らないといっても若い層を中心に人が多い。
 ほぼ見えていない千早にとって、ここまで来る道は危険すぎる。

「だって、龍生バイト忙しいから、一緒に居られるのここしかないんだもん」

 角の席に座って、千早が唇を尖らせながら言った。
 この表情をされて俺がイライラしないのはこいつくらいだろう。

「呼んだら、迎え行くつってんだろ? 口ついてんぞ」

 ドリンクを置きがてら、こっそり口をペーパーで拭いてやる。

「こんなに世話焼かせて、お前、俺がいないとなにも出来なくなったらどうすんだよ?」

 そんなことを自分で口にしておきながら、本当は千早の答えなんざ分かってる。

 どうせ、他のやつ探すだろ。
 この顔なら面倒見たがるやつなんて余るほどいる。

 そう思っていた。

「いいんだもん、僕の王子様は龍生だけだもん」
「おまっ、そういうこと……」

 ――よく普通に言えるよな……。

 嬉しそうな顔で言われて戸惑った。

「それで龍生、バイト何時に終わるの? 今日、金曜日だから一緒に帰ろうよ。うち泊まろ?」
「は? そんな急に行ったら迷惑だろ?」

 また突拍子もないことを言いやがって、と思ったら

「一週間前から言ってある」

 その顔は自信満々な表情だった。

「いっしゅ……俺が断ったら、どうするつもりだったんだよ?」
「龍生はそんなことしないもん。で、何時なの?」

 最初は呆れてたが、千早にまるで俺が絶対に断らないみたいな言い方をされて、思わず、笑いそうになる。

「……七時だよ」

 降参して、気付いたらそう答えていた。