「今田さん、話してくれてありがとうございます。僕は……ずっと、風磨のことを守って生きてきたつもりでした。でも違ったんです。風磨に守られていた。風磨が僕のためにRESTARTに入ったって知って、驚きました。風磨は弱い人間じゃなかった。そりゃ、普通の人と比べたら間違った道を歩いてしまったこともあったかもしれないけれど、でも根は優しくて、いいやつだったんです。だからこそ、風磨は今田さんのことも守ろうとしたんだと思います。今田さんが、悪に染まることを躊躇っていると、彼は感じていたんだと思います。今田さんが踏み入れた悪の罠から、足を引き摺り出そうとしたんじゃないかって」

「私を、守ろうと……」

「はい。風磨の命のことを考えたら、手遅れになってしまったかもしれないけど……でも僕は、今田さんがRESTARTのことを通報してくれて嬉しかったです。風磨の気持ちを最後の最後で汲んでくれて、ありがとうございました」

 悔しさや、寂しさや、やるせなさはもちろん未だに胸の中で渦巻いている。こうして今田に頭を下げている今も、ずっと心から消えない。風磨が生きていたらどんなに良かったか——そう思わずにはいられない。

 でも、今田がその善良な勇気をもって、会社に立ち向かってくれたことには心底感謝している。今田自身、罪に問われることは免れないはずなのに。風磨を轢いた犯人が美都の父親の健治ではないこと、生きづらい人たちを救うことを理念にしていたはずのRESTARTが、立場の弱い人間の弱みにつけ込んでいたこと。それが、世間に知れ渡っただけでも、風磨の魂が浮かばれた気がするのだ。

「……ありがとう、善樹くん。きみはやっぱり強くて、優秀な人間だ。私がきみと一緒に働きたいと思ったのは、本心だった。悪に染まれそうだったからじゃない。心の底から、仕事ができて、他人のことを思いやれるきみのことを尊敬していたから。だからこれからも胸を張って、風磨くんの分も生きてほしい。……人生の先輩とも呼べない私からの些細な願いだ」

 今田が充血した瞳で善樹のことを見つめながらそう言った。彼の瞳は弟の成功を見守る兄のようなやさしさを湛えていた。善樹はゆっくりと頷く。
 それから、善樹は今田と並んで風磨のお墓の前で手を合わせた。
 ずっと、自分の片割れだった最愛の弟に、最大限の祈りを込めて。

 風磨、元気にしてるか?
 風磨がいなくなってから、僕は自分の殻に閉じこもっていた。
 それすら気づかずに、風磨の死と向き合うことから逃げていた。
 僕は弱かった。反対にお前は強い人間だったんだな。
 誰にも理解してもらえなくても、風磨は強い人間だって、僕は信じられる。
 だからさ……これからも、そっちで見ててよ。
 弱い僕がまた道を踏み外さないように、見守ってて。
 僕はいつまでも、風磨の双子の兄だし、風磨は弟だから。
 僕のために、RESTARTと闘ってくれてありがとう。
 風磨のことを、いつまでも忘れずに生きていきます。

 そっと目を開けると、一陣の風が吹いて、彼がそばにいるような気がした。
 気のせいだとは分かっている。たった一人の大切な弟は、風に乗って遠く翼を広げて飛んでいく。善樹はそんな弟の姿を想像し、頬を綻ばせた。
 

【終わり】