「今日は本当にありがとう。お父さん、善樹くんと話せて本当に良かったって思ってるよ」

「お礼を言うのはこっちの方だ。お父さんに会わせてくれてありがとう」

 刑務所を後にした善樹と美都は、最寄駅までの道すがら、天高く澄み渡る秋の空の下でこれまでのことに想いを馳せていた。

「あのさ、善樹くん。私やっぱりイラストレーターの道に進もうと思うんだ」

 決意のこもるまなざしで彼女が断言した。爽やかすぎるほどの風が二人の間を吹き抜ける。

「そっか。うん、長良さんにぴったりだと思う」

「ありがとう。会社に入ることも考えてたんだけど、私はやっぱり我が道を行く方が性に合ってるみたい。それに……自分が好きなこと
に全力で取り組んで、それでお客さんに喜んでもらえたら最高だなって。社会福祉事業じゃなくても、誰かを助けたり、幸せにしたりできる仕事はたくさんあるなって、改めて思えたから」 

「素敵なことだね」

 美都の考えは、父親のこともあって道に迷っていた彼女にとって、大切な一歩を踏み出すきっかけになりそうだ。善樹は思う。あの夏のインターンから、善樹の周りでいろんなことが変わっていた。風磨を失ったことに気づき、自分の信じてきた正義が根底から揺るがされ、RESTARTの実情を知って、すべてが終わってしまった。けれど、絶望に打ちひしがれそうになっていたどの瞬間にも彼女がいた。彼女のおかげで、善樹は変われたのだ。
 そんな美都がまた新たな一歩を踏み出そうとしている。善樹も、これからの将来について深く考えようと思えていた。

「長良さん、今まで本当にありがとう。僕もこれから、自分が将来どういう会社で働きたいかとか、どうやって生きていきたいかとか、じっくり考えるよ。だからまた、何かあったときはお互いに相談できたら嬉しい。いや、僕の相談に乗ってくれたら嬉しいよ」

 善樹の言葉に、美都が少女のように愛らしく頬を染めて微笑んだ。
 一陣の秋風がまた、善樹たちの肌を撫でて髪の毛を揺らす。
 目の前には茫漠すぎる、けれど希望に満ちた世界が広がっていた。