「僕のことを想って……?」
一体どういう意味だろう。理由を知りたくて、善樹は健治のまっすぐなまなざしをじっと見つめる。
「風磨くんが話してくれたんだ。『自分はすぐに頭に血が昇るタイプで、そのせいで親からも友人からも白い目で見られてきた。でも兄貴だけは違った。兄貴だけは、自分のことを外面的な性質ではなくて、本質的な性格を見抜いてくれた。本当は他人に優しくしたい。だけど、感情表現が上手くいかなくて空回りしてしまう——そんな自分の気持ちを知ってくれて、いつも守ってくれる。だから、今度は自分が兄貴の役に立ちたい。正義感が強い兄貴にはRESTARTっていう会社が似合うんじゃないかって思って、潜入調査に行きたいんです』と」
兄貴の役に立ちたい。
RESTARTが似合うんじゃないかって。
潜入調査に行きたいんです。
初めて耳にした、風磨の本当の想い。
知らなかった。風磨は今まで、適当な会社を選んで働きに行っているのだと思っていた。RESTARTを選んだことが、すべて自分のためだったなんて……。
「風磨くんは結局RESTARTでも上手くやれなかったみたいで、転職した後もちょくちょく相談を受けていたんだ。『業務内容で納得がいかないところがある。でもそれを上司に伝えても、軽くあしらわれる』と嘆いていたよ。『あの会社は絶対におかしい。俺が悪を暴いてやる。それまで、兄貴にRESTARTは勧められない』ってひたすら嘆いていた。その時私には、彼がRESTARTに抱いていた違和感が分からなかった。でも、まさかその数ヶ月後に風磨くんがあんなことになるなんて……」
健治が、眉根を寄せて唇を噛み締めた。
自分が冤罪で捕まったことより何よりも、風磨の死を悼んでいるその姿に、善樹は胸を打たれた。
「善樹くん、今、世間ではRESTARTのことが明るみになっているようだね。私は……私は、いつか自分の冤罪が晴れると信じていたけれど、心の片隅では、自分は断罪されるべきではないかと思っていたんだ。私が、風磨くんの相談をもっと真剣に聞いて、RESTARTのことを調べていれば——せめて警察に相談するとか、なんらかのアクションを起こしていれば、風磨くんを守れたかもしれない。風磨くんは私を恨んでいると思う。だから、本当にすまなかった」
ガラスの向こうで深々と頭を下げる健治を見て、善樹の胸がツンと痛くなった。
彼が謝る必要など微塵もない。
隣に座っている美都が、潤んだ瞳から一筋の涙をこぼしていた。
「顔を上げてください。お父さんは何も悪くありません。悪いのはあいつらです。僕は、風磨が僕のためにRESTARTに入ってくれたことを知って、嬉しかったです。その話が聞けて、風磨を守って生きてきた自分の人生を、肯定されたような気がしました。風磨は……お父さんのことを、絶対に恨んでいません。むしろ感謝していると思います。だから本当に、ありがとうございました」
今度は善樹が頭を下げる番だった。
健治が切なげな表情を浮かべて、小さく「ありがとう」と呟いた。
美都の瞳から流れる涙が、一筋、また一筋と勢いづいて落ちていく。それでも彼女は顔を覆うことなく、善樹と父親の話に最後まで耳を傾けていた。
一体どういう意味だろう。理由を知りたくて、善樹は健治のまっすぐなまなざしをじっと見つめる。
「風磨くんが話してくれたんだ。『自分はすぐに頭に血が昇るタイプで、そのせいで親からも友人からも白い目で見られてきた。でも兄貴だけは違った。兄貴だけは、自分のことを外面的な性質ではなくて、本質的な性格を見抜いてくれた。本当は他人に優しくしたい。だけど、感情表現が上手くいかなくて空回りしてしまう——そんな自分の気持ちを知ってくれて、いつも守ってくれる。だから、今度は自分が兄貴の役に立ちたい。正義感が強い兄貴にはRESTARTっていう会社が似合うんじゃないかって思って、潜入調査に行きたいんです』と」
兄貴の役に立ちたい。
RESTARTが似合うんじゃないかって。
潜入調査に行きたいんです。
初めて耳にした、風磨の本当の想い。
知らなかった。風磨は今まで、適当な会社を選んで働きに行っているのだと思っていた。RESTARTを選んだことが、すべて自分のためだったなんて……。
「風磨くんは結局RESTARTでも上手くやれなかったみたいで、転職した後もちょくちょく相談を受けていたんだ。『業務内容で納得がいかないところがある。でもそれを上司に伝えても、軽くあしらわれる』と嘆いていたよ。『あの会社は絶対におかしい。俺が悪を暴いてやる。それまで、兄貴にRESTARTは勧められない』ってひたすら嘆いていた。その時私には、彼がRESTARTに抱いていた違和感が分からなかった。でも、まさかその数ヶ月後に風磨くんがあんなことになるなんて……」
健治が、眉根を寄せて唇を噛み締めた。
自分が冤罪で捕まったことより何よりも、風磨の死を悼んでいるその姿に、善樹は胸を打たれた。
「善樹くん、今、世間ではRESTARTのことが明るみになっているようだね。私は……私は、いつか自分の冤罪が晴れると信じていたけれど、心の片隅では、自分は断罪されるべきではないかと思っていたんだ。私が、風磨くんの相談をもっと真剣に聞いて、RESTARTのことを調べていれば——せめて警察に相談するとか、なんらかのアクションを起こしていれば、風磨くんを守れたかもしれない。風磨くんは私を恨んでいると思う。だから、本当にすまなかった」
ガラスの向こうで深々と頭を下げる健治を見て、善樹の胸がツンと痛くなった。
彼が謝る必要など微塵もない。
隣に座っている美都が、潤んだ瞳から一筋の涙をこぼしていた。
「顔を上げてください。お父さんは何も悪くありません。悪いのはあいつらです。僕は、風磨が僕のためにRESTARTに入ってくれたことを知って、嬉しかったです。その話が聞けて、風磨を守って生きてきた自分の人生を、肯定されたような気がしました。風磨は……お父さんのことを、絶対に恨んでいません。むしろ感謝していると思います。だから本当に、ありがとうございました」
今度は善樹が頭を下げる番だった。
健治が切なげな表情を浮かべて、小さく「ありがとう」と呟いた。
美都の瞳から流れる涙が、一筋、また一筋と勢いづいて落ちていく。それでも彼女は顔を覆うことなく、善樹と父親の話に最後まで耳を傾けていた。