彼女に連れられて都内の刑務所にやって来たのは、それから十日程過ぎた金曜日のことだ。
その間、世間では信じられないことが起きていた。
“株式会社RESTARTの社長、および人事部長の岩崎優希が検挙された“
善樹が美都と共にRESTARTに乗り込んだ二日後、朝起きてテレビをつけると、真っ先に飛び込んできたニュースがそれだった。寝ぼけているのではないかと思い、顔を洗って再びテレビ画面を凝視する。だがやはり、ニュースはRESTARTの上層部がひた隠しにしていた悪事について、これでもかと言わんばかりに強調していた。
“RESTARTは社会福祉事業サービスと称して自社の介護施設、老人施設で生活している身寄りのない人間から個人情報及び財産を奪取”
“ホームレスの人たちを施設に送り込み、彼らの生活保護を中抜きしていた”
“国から助成金を騙し取る”
“RESTARTは社会福祉事業会社ではない。人間の弱みに漬け込んだ悪魔のような会社だ”
“RESTARTの真の姿を知っていたのは会社でも限られた人間のみ。上層部と、一部の人間だけが不正を働いて得たお金で高い利益を得ていた”
“人事部長の岩崎優希は、昨年春に起きた「RESTART元従業員轢き逃げ事件」の容疑者として、現在取り調べ中”
テレビ画面に映し出される数々の恐ろしい文句に、善樹は我が目を疑った。
「どうして」
RESTARTが働いた悪事について、およそそんなところだろうと予想していたものと、そこまでしていたのかと度肝を抜かされたものは半分ずつだった。それ以上に、あれだけ不正がバレることはないと豪語していた岩崎たちの秘め事がこうして二日と経たずに暴かれてしまったことが、不思議でたまらなかった。
善樹のブログを見て警察が動いたのだとしても、あまりにも早すぎる。
それに、一介の大学生のブログを見て、警察が真面目に調査をしてくれるとは到底思えなかった。
「岩崎部長が、風磨を——」
もう一つ分かった衝撃的な事実を、善樹は口にする。誰もいない部屋にこだまするニュースの音声と、善樹の声が混ざり合って、ぐわんと頭の奥に響いた。
「長良さんに……連絡しないと」
咄嗟に思いついたのがそれだった。だが、善樹が彼女に連絡をするよりも前に、彼女の方から大量のメッセージが届いていた。
【会って話がしたい】
それだけの言葉が、善樹を突き動かす。朝食もまともに摂らないまま、彼女と約束をして家を飛び出した。
「本当にびっくりした……朝起きたら、ニュースでRESTARTのことが流れてるんだもん」
「僕も、驚いた。にしてもどうしてこんなに早く……」
「なんでだろうね。善樹くんのブログが効いたのかもしれない。かなり拡散されてたし。今もリポストされてるでしょ?」
「うん、それはそうだけど。ニュースの効果だろうね」
いつもの喫茶店で、モーニングメニューを食べながら、いまだ冷めやらない興奮をなんとか鎮めるのに必死だった。
美都の言う通り、善樹のSNSアカウントは朝からひっきりなしに通知が届いていた。鬱陶しくなったので通知はオフにしていたが、今も画面を開けばどんどん拡散されているのが分かるはずだ。
「なんか納得いかないけど、でも、明るみに出て良かった」
彼女の顔に一気に安堵が広がる。善樹と会うまで、抱えきれない不安を溜め込んでいたのだろう。善樹も同じ気持ちだった。
「それでね、お父さんのことなんだけど」
彼女の薄い唇が開く。
「善樹くん、十月二十五日の金曜日って空いてる? お父さんに、一緒に会いに行ってほしいの」
「この前、RESTARTからの帰りに言ってた話だよね。うん、大丈夫。その日は予定がないはず」
頭の中でアルバイトのスケジュールを確認しながら答えた。
「ありがとう。じゃあ時間と待ち合わせ場所はまた伝えるね。お父さん、喜ぶと思う」
美都の父親が善樹に会って喜ぶというのはあまり考えられないことだったが、純粋な笑顔を浮かべる彼女を見ていると、彼女の父親に会いたいという気持ちが不思議と湧き上がってきた。
その間、世間では信じられないことが起きていた。
“株式会社RESTARTの社長、および人事部長の岩崎優希が検挙された“
善樹が美都と共にRESTARTに乗り込んだ二日後、朝起きてテレビをつけると、真っ先に飛び込んできたニュースがそれだった。寝ぼけているのではないかと思い、顔を洗って再びテレビ画面を凝視する。だがやはり、ニュースはRESTARTの上層部がひた隠しにしていた悪事について、これでもかと言わんばかりに強調していた。
“RESTARTは社会福祉事業サービスと称して自社の介護施設、老人施設で生活している身寄りのない人間から個人情報及び財産を奪取”
“ホームレスの人たちを施設に送り込み、彼らの生活保護を中抜きしていた”
“国から助成金を騙し取る”
“RESTARTは社会福祉事業会社ではない。人間の弱みに漬け込んだ悪魔のような会社だ”
“RESTARTの真の姿を知っていたのは会社でも限られた人間のみ。上層部と、一部の人間だけが不正を働いて得たお金で高い利益を得ていた”
“人事部長の岩崎優希は、昨年春に起きた「RESTART元従業員轢き逃げ事件」の容疑者として、現在取り調べ中”
テレビ画面に映し出される数々の恐ろしい文句に、善樹は我が目を疑った。
「どうして」
RESTARTが働いた悪事について、およそそんなところだろうと予想していたものと、そこまでしていたのかと度肝を抜かされたものは半分ずつだった。それ以上に、あれだけ不正がバレることはないと豪語していた岩崎たちの秘め事がこうして二日と経たずに暴かれてしまったことが、不思議でたまらなかった。
善樹のブログを見て警察が動いたのだとしても、あまりにも早すぎる。
それに、一介の大学生のブログを見て、警察が真面目に調査をしてくれるとは到底思えなかった。
「岩崎部長が、風磨を——」
もう一つ分かった衝撃的な事実を、善樹は口にする。誰もいない部屋にこだまするニュースの音声と、善樹の声が混ざり合って、ぐわんと頭の奥に響いた。
「長良さんに……連絡しないと」
咄嗟に思いついたのがそれだった。だが、善樹が彼女に連絡をするよりも前に、彼女の方から大量のメッセージが届いていた。
【会って話がしたい】
それだけの言葉が、善樹を突き動かす。朝食もまともに摂らないまま、彼女と約束をして家を飛び出した。
「本当にびっくりした……朝起きたら、ニュースでRESTARTのことが流れてるんだもん」
「僕も、驚いた。にしてもどうしてこんなに早く……」
「なんでだろうね。善樹くんのブログが効いたのかもしれない。かなり拡散されてたし。今もリポストされてるでしょ?」
「うん、それはそうだけど。ニュースの効果だろうね」
いつもの喫茶店で、モーニングメニューを食べながら、いまだ冷めやらない興奮をなんとか鎮めるのに必死だった。
美都の言う通り、善樹のSNSアカウントは朝からひっきりなしに通知が届いていた。鬱陶しくなったので通知はオフにしていたが、今も画面を開けばどんどん拡散されているのが分かるはずだ。
「なんか納得いかないけど、でも、明るみに出て良かった」
彼女の顔に一気に安堵が広がる。善樹と会うまで、抱えきれない不安を溜め込んでいたのだろう。善樹も同じ気持ちだった。
「それでね、お父さんのことなんだけど」
彼女の薄い唇が開く。
「善樹くん、十月二十五日の金曜日って空いてる? お父さんに、一緒に会いに行ってほしいの」
「この前、RESTARTからの帰りに言ってた話だよね。うん、大丈夫。その日は予定がないはず」
頭の中でアルバイトのスケジュールを確認しながら答えた。
「ありがとう。じゃあ時間と待ち合わせ場所はまた伝えるね。お父さん、喜ぶと思う」
美都の父親が善樹に会って喜ぶというのはあまり考えられないことだったが、純粋な笑顔を浮かべる彼女を見ていると、彼女の父親に会いたいという気持ちが不思議と湧き上がってきた。