「ダメだったな……僕たち。RESTARTの悪事を暴くなんて言って、結局何も、できなかった」

「うん……そうだね。完全に、舐められてるって感じだった。内定は断って正解だったけれど、この先どうなるんだろう」

 美都はきっと、どうにもならないという現実を知っている。
 知っていて、あえて分からないふりをしているのだ。
 岩崎の言ったように、RESTARTは徹底的に悪事の証拠を隠滅するだろう。そして、美都の父親は罪を被ったまま、善樹は世間から戯言で大企業を貶めようとした哀れな学生として世間から強いバッシングを受けるだろう。

「……あいつら、本当に調子に乗りやがって。ちくしょうっ」

 くそ、くそ、と拳を何度も椅子に打ちつける。
 やがて拳が赤く腫れ、血が滲んでいく。それでも、善樹は自分の中で行き場を失っている悔しさを発散させる術が他になかった。

「やめて、善樹くん!」

 美都が小さな悲鳴と共に、善樹の手を掴む。本気を出せば彼女の手を振り払うこともできたけれど、潤んだ瞳に涙が浮かんでいるのが見えて、善樹は腕全体から力を抜いた。

「ごめん……」

 みっともないところを見せてしまった。彼女には、散々助けられたというのに。

「ううん、そうだよね、悔しいよね。善樹くんの気持ちはすごくよく分かる。私もすごく悔しい……。悔しいなんて言葉では言い表せないくらい。ぼうっとしてたら、自分を見失いそうになる」

「長良さん……」

 そうだ。彼女だって、父親の無実を証明したいと思っていたはずだ。
 それなのに、あんなふうに軽くあしらわれて、やるせない気持ちは彼女の方が何倍も大きいに違いない。

「でも、すべてが無駄だったとは思えない。少なくとも、私や善樹くんは、悪に染まらなくて済んだじゃない。RESTARTに、自分の意思をはっきりと伝えられたじゃない。それだけでもう、私たちは前に進んでるんだよ」

「前に……そうだね。長良さんの言う通りだ」

「うん。だから行こう? 善樹くんはもうRESTARTの人間じゃない。これからは一条善樹として、堂々と歩いていけばいいんだよ。善樹くんが正義だと思うことを、貫いていけばいい」

 確かに輪郭を帯びた言葉が、善樹の胸に深く浸透していく。
 自分のこれまでの人生での選択を、初めて誰かに肯定してもらえた気がした。

「ありがとう。本当に、きみには助けられてばかりだ」

「そんなことない。私のほうこそ、善樹くんやみんなに助けられてここまで来られた。だからありがとう。あのね、善樹くん。実はちょっとお願いがあって」

「お願い?」

 神妙な顔つきでこちらを見つめる美都。何事かと、彼女の次の言葉を待った。

「私のお父さんに、会ってほしいの」