映し出された世にも奇妙な課題に、会場がざわつき始める。
当然善樹も、課題の内容を見て混乱していた。
「犯罪者? 炙り出す……?」
一体どういうことだろう。と考えたところで、ピンとくる。もしかしたら、事前にグループのメンバーの一人に「犯罪者」の役割を担うように何らかの指示があったのかもしれない。例えば受付で「犯罪者」という札を渡されたとか。人狼ゲームみたいに、誰かがそういう役目を与えられている可能性は高い。それから、これから役割を与えられるというのも考えられる。どちらにせよ、会社の事業とは一切関連のない課題に、違和感を拭えなかった。
「静粛にお願いします。この課題を見て驚かれた方が大半かと思います。皆さん、弊社の企業研究をして準備されてきたことでしょう。弊社の事業内容とはまったく関係のない課題に、どう取り組んでいただけるか。それを、私たちに見せていただきたい」
岩崎の言いたいことは、なんとなく理解できた。
誰しもインターンシップに参加するにあたり、その企業の概要を調べるのは当たり前のことだろう。だが、RESTARTはそういう学生の予想の裏をついて、まったく新しい課題を出してきた。突発的で前例のない問題にどう立ち向かうのか——学生たちの人となりを知るのには確かに納得できる課題だった。
「課題はここに書かれているとおりですが、何か質問はありますか?」
岩崎が全員の顔を見回して問いかける。シンと鎮まりかえる会場で、やがて一つの手が上がった。Aグループに所属する女の子のようだ。
「はい、そこのきみ」
岩崎に指名されて、一人の女子が立ち上がる。そばにいた社員からマイクを渡された。
「課題の『犯罪者』についてなのですが。ここでいう『犯罪者』とは、グループの中に一人、そういう役割を担っている人がいるということですよね? すでに本人は把握しているのでしょうか」
善樹が先ほど気になったことを代弁してくれた。おそらくこの場にいる全員が同じ疑問を抱いていることだろう。
「良い質問ですね。座ってください。彼女の言う通り、この中のA〜Fグループに一人ずつ存在する犯罪者は、ご本人が把握している状態です。なぜなら彼らは——実生活で実際に犯罪を犯したことがあるからです」
「え、どういうこと?」
「本物の犯罪者がいるの?」
「さすがに嘘だろ」
今日一番のざわめきが会場中に広がる。善樹も例外ではなかった。周りの人間の顔をつい見てしまう。みんな同じだった。きょろきょろと頭や視線を動かして、周囲の様子を伺っている。それこそ犯罪者を見るような疑いのまなざしを他人に向ける者もいた。
本当の犯罪者がいるだって?
善樹の頭も当然困惑していた。
前代未聞の課題に、さらに前代未聞の前提条件が付け加えられる。今この状況を冷静に受け入れることができている人間などいないだろう。
「皆さん、落ち着いてください。さすがに、殺人のような重い犯罪を犯した人はいません。どれも言ってしまえば軽い罪です。ですが、犯罪者というのには変わりありません。その一人を、議論で見つけ出してくださいということです」
「……」
狂った課題を淡々と口にする岩崎に、誰も何も言い返すことができない。口を開けば自分が犯罪者だとバレてしまうのではないか——そんな空気さえ感じられた。
「この課題は、あくまで犯罪者を炙り出すまでの思考を試すものです。必ずしも正解を求めているわけではありません。たとえ間違った答えを出したとしても、納得できる主張をすればいいのです。そのため、犯罪者として自覚のある人自身も、正当な理由をもって誰かを告発してください。真偽は問いません。ただ我々を唸らせてほしいのです。あと、この課題ではグループで一つの答えを出すのがゴールではありません。各グループの中でそれぞれが一人ずつ、犯罪者だと思う人物を発表してください。その中で一番面白い発表をした人を、優勝者とします」
「面白い発表……?」
誰かが疑問を口にした。岩崎にも聞こえていたはずだが、彼はスルーして続けた。
「優勝者は各グループに一人なので、A〜Fグループでそれぞれ六人の勝者が現れます。優勝者には賞金の授与、さらにこのインターンシップの後、弊社の特別選考にご招待します」
特別選考。
誰もが頭の中に、「内定」の文字を浮かべたに違いない。善樹も、特別選考という甘美な響きに心を奪われていた。
経団連の取り決めでは、基本的に決められた期間内でしか就活生に内定を出せないことになっている。普通は四年生になってから採用開始となるのだが、実際はそれよりも前に内々に内定を出す会社も少なくなかった。株式会社RESTARTも、その一つのようだ。
特別選考で合格=内定とは誰も口にしていないはずなのに、みんなの頭の中では同じ方程式が成り立っている。岩崎がニッと口の端を持ち上げたのが分かった。
「特別選考で上手くいけば、皆さんが想像している通りの報酬が得られるでしょう。ぜひ、頑張ってください」
最後に一礼をした岩崎は颯爽と会場から出ていった。
当然善樹も、課題の内容を見て混乱していた。
「犯罪者? 炙り出す……?」
一体どういうことだろう。と考えたところで、ピンとくる。もしかしたら、事前にグループのメンバーの一人に「犯罪者」の役割を担うように何らかの指示があったのかもしれない。例えば受付で「犯罪者」という札を渡されたとか。人狼ゲームみたいに、誰かがそういう役目を与えられている可能性は高い。それから、これから役割を与えられるというのも考えられる。どちらにせよ、会社の事業とは一切関連のない課題に、違和感を拭えなかった。
「静粛にお願いします。この課題を見て驚かれた方が大半かと思います。皆さん、弊社の企業研究をして準備されてきたことでしょう。弊社の事業内容とはまったく関係のない課題に、どう取り組んでいただけるか。それを、私たちに見せていただきたい」
岩崎の言いたいことは、なんとなく理解できた。
誰しもインターンシップに参加するにあたり、その企業の概要を調べるのは当たり前のことだろう。だが、RESTARTはそういう学生の予想の裏をついて、まったく新しい課題を出してきた。突発的で前例のない問題にどう立ち向かうのか——学生たちの人となりを知るのには確かに納得できる課題だった。
「課題はここに書かれているとおりですが、何か質問はありますか?」
岩崎が全員の顔を見回して問いかける。シンと鎮まりかえる会場で、やがて一つの手が上がった。Aグループに所属する女の子のようだ。
「はい、そこのきみ」
岩崎に指名されて、一人の女子が立ち上がる。そばにいた社員からマイクを渡された。
「課題の『犯罪者』についてなのですが。ここでいう『犯罪者』とは、グループの中に一人、そういう役割を担っている人がいるということですよね? すでに本人は把握しているのでしょうか」
善樹が先ほど気になったことを代弁してくれた。おそらくこの場にいる全員が同じ疑問を抱いていることだろう。
「良い質問ですね。座ってください。彼女の言う通り、この中のA〜Fグループに一人ずつ存在する犯罪者は、ご本人が把握している状態です。なぜなら彼らは——実生活で実際に犯罪を犯したことがあるからです」
「え、どういうこと?」
「本物の犯罪者がいるの?」
「さすがに嘘だろ」
今日一番のざわめきが会場中に広がる。善樹も例外ではなかった。周りの人間の顔をつい見てしまう。みんな同じだった。きょろきょろと頭や視線を動かして、周囲の様子を伺っている。それこそ犯罪者を見るような疑いのまなざしを他人に向ける者もいた。
本当の犯罪者がいるだって?
善樹の頭も当然困惑していた。
前代未聞の課題に、さらに前代未聞の前提条件が付け加えられる。今この状況を冷静に受け入れることができている人間などいないだろう。
「皆さん、落ち着いてください。さすがに、殺人のような重い犯罪を犯した人はいません。どれも言ってしまえば軽い罪です。ですが、犯罪者というのには変わりありません。その一人を、議論で見つけ出してくださいということです」
「……」
狂った課題を淡々と口にする岩崎に、誰も何も言い返すことができない。口を開けば自分が犯罪者だとバレてしまうのではないか——そんな空気さえ感じられた。
「この課題は、あくまで犯罪者を炙り出すまでの思考を試すものです。必ずしも正解を求めているわけではありません。たとえ間違った答えを出したとしても、納得できる主張をすればいいのです。そのため、犯罪者として自覚のある人自身も、正当な理由をもって誰かを告発してください。真偽は問いません。ただ我々を唸らせてほしいのです。あと、この課題ではグループで一つの答えを出すのがゴールではありません。各グループの中でそれぞれが一人ずつ、犯罪者だと思う人物を発表してください。その中で一番面白い発表をした人を、優勝者とします」
「面白い発表……?」
誰かが疑問を口にした。岩崎にも聞こえていたはずだが、彼はスルーして続けた。
「優勝者は各グループに一人なので、A〜Fグループでそれぞれ六人の勝者が現れます。優勝者には賞金の授与、さらにこのインターンシップの後、弊社の特別選考にご招待します」
特別選考。
誰もが頭の中に、「内定」の文字を浮かべたに違いない。善樹も、特別選考という甘美な響きに心を奪われていた。
経団連の取り決めでは、基本的に決められた期間内でしか就活生に内定を出せないことになっている。普通は四年生になってから採用開始となるのだが、実際はそれよりも前に内々に内定を出す会社も少なくなかった。株式会社RESTARTも、その一つのようだ。
特別選考で合格=内定とは誰も口にしていないはずなのに、みんなの頭の中では同じ方程式が成り立っている。岩崎がニッと口の端を持ち上げたのが分かった。
「特別選考で上手くいけば、皆さんが想像している通りの報酬が得られるでしょう。ぜひ、頑張ってください」
最後に一礼をした岩崎は颯爽と会場から出ていった。