美都から再び連絡があったのは、その翌々日、十月十三日のことだ。今度は電話ではなく直接会いたいと言われ、以前も彼女と話した喫茶店に向かった。日曜日なので今日も店内は混んでいる。美都はコーヒーを頼むと、早速本題に入っていった。
「みんなから、返事が来たの。たった一日しかなかったけど、それぞれ協力してくれた。だから作戦は、今晩決行したいと思ってる」
「今晩か——」
美都も、Dグループのみんなも仕事が速く、善樹は素直に驚かされた。それぐらい、みんなの気持ちは一緒だったようだ。
「本当に、大丈夫かな」
直前になって弱気になる善樹。今まで、部活の大会でも勉強でも良い成績を収め続けてきた。本番前に緊張したことはあったが、弱気になったことはない。自信があったのだ。自分はここまで頑張ったのだから、絶対に大丈夫だという自信。でも今回は——相手が相手だけに、どうなるか分からない。未知なるものと対決をする。初めて押し寄せてくる不安が、底なし沼のように感じられて、この作戦に自分自身が溺れてしまわないか怖くなった。
「大丈夫だよ、善樹くん」
ポンと、誰かに優しく背中を押された気がする。実際には触れられていないのだけれど、美都の柔らかな言葉が自分にとって大切な道標だと感じた。
「善樹くんが失うものは何もない。善樹くんはもう十分傷ついたんだから、これ以上傷つかなくていい。あと少し、一緒に頑張ろう?」
失うものは何もない。
そうだ。たとえこの作戦が失敗したとしても、せいぜいRESTARTから糾弾されるだけだ。退職させられるかもしれないが、何かを失ったことにはならない。美都の力強い言葉が、善樹の気持ちを前へと動かした。
「ありがとう、長良さん。僕はあのインターンできみに再会できて良かった」
「こちらこそ。じゃあ善樹くん、今晩九時に作戦決行ね。よろしくお願いします」
テーブルに額がついてしまうんじゃないかってくらい、深く頭を下げる美都。善樹はそんな彼女を細目で見つめながら、今夜の自分の行動を注意深くシュミレーションしていた。
「こんなもんか……」
午後八時半、自宅の机でパソコンに向かっていた善樹は、大切な作業を終えてほっと一息吐いた。机の上には美都から送ってもらったさまざまな資料をプリントアウトした紙がずらりと並んでいる。
椅子に座ったまま、新鮮な空気を求めるようにして天井を仰ぐ。
「風磨……もうすぐだぞ」
長い間、善樹が風磨の不在に気づかないことで、風磨の魂は浮かばれなかっただろう。
本当に、ごめんな。
心の中で祈るように呟く。時計の針が時間を刻む音だけが、室内に響いていた。
それから三十分後、午後九時になると心臓が張り裂けそうなくらい緊張しながら、善樹はスマホを開く。
これですべてが終わるかもしれないし、終わらないかもしれない。
終わらなくても、失うものは何もない。
何度も自分に言い聞かせながら、善樹はスマホの画面をタップした——。
「みんなから、返事が来たの。たった一日しかなかったけど、それぞれ協力してくれた。だから作戦は、今晩決行したいと思ってる」
「今晩か——」
美都も、Dグループのみんなも仕事が速く、善樹は素直に驚かされた。それぐらい、みんなの気持ちは一緒だったようだ。
「本当に、大丈夫かな」
直前になって弱気になる善樹。今まで、部活の大会でも勉強でも良い成績を収め続けてきた。本番前に緊張したことはあったが、弱気になったことはない。自信があったのだ。自分はここまで頑張ったのだから、絶対に大丈夫だという自信。でも今回は——相手が相手だけに、どうなるか分からない。未知なるものと対決をする。初めて押し寄せてくる不安が、底なし沼のように感じられて、この作戦に自分自身が溺れてしまわないか怖くなった。
「大丈夫だよ、善樹くん」
ポンと、誰かに優しく背中を押された気がする。実際には触れられていないのだけれど、美都の柔らかな言葉が自分にとって大切な道標だと感じた。
「善樹くんが失うものは何もない。善樹くんはもう十分傷ついたんだから、これ以上傷つかなくていい。あと少し、一緒に頑張ろう?」
失うものは何もない。
そうだ。たとえこの作戦が失敗したとしても、せいぜいRESTARTから糾弾されるだけだ。退職させられるかもしれないが、何かを失ったことにはならない。美都の力強い言葉が、善樹の気持ちを前へと動かした。
「ありがとう、長良さん。僕はあのインターンできみに再会できて良かった」
「こちらこそ。じゃあ善樹くん、今晩九時に作戦決行ね。よろしくお願いします」
テーブルに額がついてしまうんじゃないかってくらい、深く頭を下げる美都。善樹はそんな彼女を細目で見つめながら、今夜の自分の行動を注意深くシュミレーションしていた。
「こんなもんか……」
午後八時半、自宅の机でパソコンに向かっていた善樹は、大切な作業を終えてほっと一息吐いた。机の上には美都から送ってもらったさまざまな資料をプリントアウトした紙がずらりと並んでいる。
椅子に座ったまま、新鮮な空気を求めるようにして天井を仰ぐ。
「風磨……もうすぐだぞ」
長い間、善樹が風磨の不在に気づかないことで、風磨の魂は浮かばれなかっただろう。
本当に、ごめんな。
心の中で祈るように呟く。時計の針が時間を刻む音だけが、室内に響いていた。
それから三十分後、午後九時になると心臓が張り裂けそうなくらい緊張しながら、善樹はスマホを開く。
これですべてが終わるかもしれないし、終わらないかもしれない。
終わらなくても、失うものは何もない。
何度も自分に言い聞かせながら、善樹はスマホの画面をタップした——。