Dグループのメンバーを集めるのは、それほど難しいことではなかった。
まず、善樹が宗太郎に連絡を入れた。宗太郎は善樹からコンタクトをとってきたことに訝しんでいた様子だったが、美都から相談があるらしい、と伝えると承諾してくれた。
それから、宗太郎は開と連絡先を交換していたようで、開に連絡をとってくれた。開は予想通り、すぐに集まりに参加すると言ってくれたそうだ。残り一人は友里だが、開が友里の連絡先を知っていた。どうやら開はあのインターンで善樹と美都以外と、連絡先を交換していたらしい。まったく開らしいといえばそうだが、インターンの夜に美都に強引に迫ったことを考えると、やはり彼のことは信用しづらい。発表の場で、善樹は開のことを犯罪者だと結論づけたこともあり、今更彼に会ってどんな顔をすればいいのか、分からなかった。
けれど、美都が全員に聞きたいことがあるというのだから、善樹も彼女の気持ちを尊重した。風磨のこともある。みんなと話すことが、風磨の仇を知ることに繋がるなら、善樹だってみんなときちんと向き合いたいという気持ちはあった。
五人が集まったのは、美都と二人で喫茶店で話をしてから三日後の水曜日のことだ。
ちょうど善樹はRESTARTでの仕事終わりで、他のメンバーも大学終わりに集まれるということだった。遠方の開と友里も、すぐに新幹線を使って東京まで来てくれた。今日は泊まって、明日帰るらしい。大学は一日くらい休んでも大丈夫、ということだ。友里に関してはほとんど単位を取り終わっていて、そもそも翌日が終日休みだという。タイミングよくみんなで集まれてほっとしていた。
「みんな久しぶり〜」
新幹線組に合わせて、東京駅近くの居酒屋の個室で、善樹たちは五人で酒を酌み交わす。相変わらずゆるいノリで一番に声を上げたのは開だった。変わっていない。夏のインターンから誰一人印象は変わらなくて、幻のように感じていたインターンでの三日間が現実だったのだと思い知った。
「開、身長伸びた?」
「そんなわけないだろ。揶揄うなよ」
宗太郎のボケに、開がすかさずつっこむ。インターンの時とは違う、愛のあるいじり方だった。長身の宗太郎からいじられて、開はむすっと唇を尖らせた。でも、本気で怒っているわけではないらしい。
「長良さんと一条くんも、久しぶり」
友里が善樹たちを見て微笑む。インターンではキリッとしたまなざしで、終始緊張しているような彼女だったが、今こうして違う場所で顔を合わせると、イメージよりもずっと柔らかい表情を浮かべていた。
「久しぶり。遠いところからわざわざありがとう」
「ううん。私も、久しぶりにみんなに会いたいと思ってたから。それに明日、推しのライブがあるの」
「え、そうなの? めっちゃいいじゃん。ちなみに誰?」
「『RED SCALE』っていうバンド。マイナーだし知らないでしょ?」
「えー知ってるよ! 俺も好きなんだ」
まさか開が自分の推しバンドを知っていると思わなかったのか、友里が目を丸くした。
「天海くんも? 偶然だね」
「びっくりしたー。でもいいな〜俺も、明日は東京楽しんでから帰ることにするわ」
インターン中とは打って変わって和やかな話題で盛り上がる二人。善樹は、五人でこんな他愛もない時間を過ごせるとは思っておらず、気が抜けそうになった。
「今日は、善樹からの呼びかけだっけ?」
「うん。でも最初にみんなで集まりたいって言ったのは、長良さん」
三人が、美都の方を一斉に見る。インターンの時も、発言が少ない美都のことをこんなふうにみんなが見つめるシーンが何度もあった。言葉数は少ないけれど、彼女の発言には人の心を動かす大きな力がある。
「私が声をかけました。みなさん、集まってくれてありがとうございます」
美都が小さく頭を下げた。「もう敬語じゃなくていいのに」という宗太郎の言葉に、彼女は頬をほんのり赤くする。
「うん、そうだね。普通に同級生として話すね。今日みんなに集まってもらったのは、私から聞きたいことがあるから、なの。でもその前に話しておきたいことがあって」
美都はそう前置きをしてから、ビールを一杯口に含んだ。
「私がこのグループで特別選考に選ばれて、先日面接を受けて——先方から内定をいただきました」
美都の言葉に、「おお」と誰かが声を漏らした。あのインターンでみんなが欲しかったもの——それは、少なからずRESTARTの特別選考への参加権であり、もっとつっこんだ言い方をすれば内定に他ならない。
善樹はともかく、他のみんなは美都のことを羨ましいと思うかもしれない。
「それは……おめでとう。やったじゃん」
「うん。俺も長良さんが選ばれたんだと思ってたし、素直にすごいよ」
「おめでとう」
三者三様で、美都に祝福の言葉を贈る。
「ありがとう。それでね、内定を受諾するか迷ってるんだけど……その前に、みんなに聞いてほしいことがある」
美都の視線が、今度は善樹の方に向けられた。どうしたのだろうか、と疑問に思っていると、美都が小声で「風磨くんのこと、話せる?」と聞いた。善樹は驚いたものの、ゆっくりと頷いた。
まず、善樹が宗太郎に連絡を入れた。宗太郎は善樹からコンタクトをとってきたことに訝しんでいた様子だったが、美都から相談があるらしい、と伝えると承諾してくれた。
それから、宗太郎は開と連絡先を交換していたようで、開に連絡をとってくれた。開は予想通り、すぐに集まりに参加すると言ってくれたそうだ。残り一人は友里だが、開が友里の連絡先を知っていた。どうやら開はあのインターンで善樹と美都以外と、連絡先を交換していたらしい。まったく開らしいといえばそうだが、インターンの夜に美都に強引に迫ったことを考えると、やはり彼のことは信用しづらい。発表の場で、善樹は開のことを犯罪者だと結論づけたこともあり、今更彼に会ってどんな顔をすればいいのか、分からなかった。
けれど、美都が全員に聞きたいことがあるというのだから、善樹も彼女の気持ちを尊重した。風磨のこともある。みんなと話すことが、風磨の仇を知ることに繋がるなら、善樹だってみんなときちんと向き合いたいという気持ちはあった。
五人が集まったのは、美都と二人で喫茶店で話をしてから三日後の水曜日のことだ。
ちょうど善樹はRESTARTでの仕事終わりで、他のメンバーも大学終わりに集まれるということだった。遠方の開と友里も、すぐに新幹線を使って東京まで来てくれた。今日は泊まって、明日帰るらしい。大学は一日くらい休んでも大丈夫、ということだ。友里に関してはほとんど単位を取り終わっていて、そもそも翌日が終日休みだという。タイミングよくみんなで集まれてほっとしていた。
「みんな久しぶり〜」
新幹線組に合わせて、東京駅近くの居酒屋の個室で、善樹たちは五人で酒を酌み交わす。相変わらずゆるいノリで一番に声を上げたのは開だった。変わっていない。夏のインターンから誰一人印象は変わらなくて、幻のように感じていたインターンでの三日間が現実だったのだと思い知った。
「開、身長伸びた?」
「そんなわけないだろ。揶揄うなよ」
宗太郎のボケに、開がすかさずつっこむ。インターンの時とは違う、愛のあるいじり方だった。長身の宗太郎からいじられて、開はむすっと唇を尖らせた。でも、本気で怒っているわけではないらしい。
「長良さんと一条くんも、久しぶり」
友里が善樹たちを見て微笑む。インターンではキリッとしたまなざしで、終始緊張しているような彼女だったが、今こうして違う場所で顔を合わせると、イメージよりもずっと柔らかい表情を浮かべていた。
「久しぶり。遠いところからわざわざありがとう」
「ううん。私も、久しぶりにみんなに会いたいと思ってたから。それに明日、推しのライブがあるの」
「え、そうなの? めっちゃいいじゃん。ちなみに誰?」
「『RED SCALE』っていうバンド。マイナーだし知らないでしょ?」
「えー知ってるよ! 俺も好きなんだ」
まさか開が自分の推しバンドを知っていると思わなかったのか、友里が目を丸くした。
「天海くんも? 偶然だね」
「びっくりしたー。でもいいな〜俺も、明日は東京楽しんでから帰ることにするわ」
インターン中とは打って変わって和やかな話題で盛り上がる二人。善樹は、五人でこんな他愛もない時間を過ごせるとは思っておらず、気が抜けそうになった。
「今日は、善樹からの呼びかけだっけ?」
「うん。でも最初にみんなで集まりたいって言ったのは、長良さん」
三人が、美都の方を一斉に見る。インターンの時も、発言が少ない美都のことをこんなふうにみんなが見つめるシーンが何度もあった。言葉数は少ないけれど、彼女の発言には人の心を動かす大きな力がある。
「私が声をかけました。みなさん、集まってくれてありがとうございます」
美都が小さく頭を下げた。「もう敬語じゃなくていいのに」という宗太郎の言葉に、彼女は頬をほんのり赤くする。
「うん、そうだね。普通に同級生として話すね。今日みんなに集まってもらったのは、私から聞きたいことがあるから、なの。でもその前に話しておきたいことがあって」
美都はそう前置きをしてから、ビールを一杯口に含んだ。
「私がこのグループで特別選考に選ばれて、先日面接を受けて——先方から内定をいただきました」
美都の言葉に、「おお」と誰かが声を漏らした。あのインターンでみんなが欲しかったもの——それは、少なからずRESTARTの特別選考への参加権であり、もっとつっこんだ言い方をすれば内定に他ならない。
善樹はともかく、他のみんなは美都のことを羨ましいと思うかもしれない。
「それは……おめでとう。やったじゃん」
「うん。俺も長良さんが選ばれたんだと思ってたし、素直にすごいよ」
「おめでとう」
三者三様で、美都に祝福の言葉を贈る。
「ありがとう。それでね、内定を受諾するか迷ってるんだけど……その前に、みんなに聞いてほしいことがある」
美都の視線が、今度は善樹の方に向けられた。どうしたのだろうか、と疑問に思っていると、美都が小声で「風磨くんのこと、話せる?」と聞いた。善樹は驚いたものの、ゆっくりと頷いた。