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「部長、結局内定を出すのは長良さん一人なんですね」

 六本木のオフィスビル、六階の人事部の部屋で、今田が優希に向かって聞いた。特別選考が行われたのはちょうど一週間前のこと。今田も面接の場に居合わせたので、今回の選考の結果については多少なりとも意見をしている。が、まさか内定が一人に絞られるとは思っていなかった。すべて部長である岩崎優希が決めたのだ。

「まあ、そうだな。他のメンバーはどうも利口すぎる(・・・・・)。その点、彼女は一番活きがいい(・・・・・)

 活き、と表現する優希の瞳は自分でも分かるくらいにギラついている。あまり過激な表現をすると部下から引かれることも多い。だが今田はとうに慣れているのか、「そうですね」と優希の求める反応を示してくれる。彼をDグループの審査員にしたのは正解だった。部下の中で、一番信頼できる存在だ。

「彼女、内定を受諾しますかね」

「さあてね。志望動機は聞いたが、あくまで表向きの動機だってことは分かったよ。どうも彼女は、我々がしたことに気づいている気がしてならない」

「……彼女の、お父さんに対してですか?」

「そうだ。あの目は真実を知っているぞと訴えているようだった」

「それは、まずいですね……。世間に公表でもされたらたまったもんじゃないですよ」

「なあに、その時はその時。我々は株式会社RESTART。今、世間から圧倒的な支持を得ている。若い娘の言うことなんて、どうとでもねじ伏せられるさ」

「はあ」

 今田は腑に落ちていないようだが、まあいい。

「どちらにせよ、彼女が内定を受諾するかどうか、まずは見ものといったところだね」

「……部長、随分楽しそうですね?」

「こんなふうに肌がひりつくような感覚は久しぶりなんでね。悪趣味で悪いね」

 優希はそう言いながら、デスクの上に置いていたコーヒーを飲み干した。余分な糖分が入っていないコーヒーは苦かったが、今の優希の胸のうちを表しているようで、余計にワクワクして鳥肌が立った。

 長良美都。

 きみはどんな選択をする?