美都のスマホにLINEの通知が届いたのは、その日の夜、九時を過ぎた頃だった。
LINEの画面を開くと、ちゃんと彼とのトーク画面のところに通知が届いている。一番上に表示されたそれを見つめて、ゆっくりとメッセージを開いた。
『長良さん、久しぶり。この間の特別選考では驚かせてごめん。
話って何かな? 僕の方は、大学が終わってインターンとバイトが休みの日ならいつでも空いています。長良さんはいつなら会えそう?』
返信の感じだと、好感触だった。善樹は美都の誘いに賛成してくれている。美都は少し考えて、『ありがとう。私の方はいつでも。善樹くんに合わせます』と返事をした。
それじゃあ明後日の日曜日に、という話になり、美都は了解と答えた。
善樹くんと、もう一度会って話ができる。
美都は、恋人に会える時のように気分が高揚していた。でもそれは、善樹のことを好きだからというわけではない。善樹への恋心は今、複雑にかたちを変えている。
それよりも、善樹には確かめたいことがある。
夏のインターンの時からずっと気になっていたこと。
明後日、それを直接聞いてみよう——。
カララン、と涼しげなベルの音が店内に響き渡る。文京区にある喫茶店で、待ち合わせをしていた善樹がやってきた。美都も善樹も自宅が同区にあるので、お互いの家からほど近い場所にある落ち着いたカフェで約束をしたのは良かったと思う。
「こんにちは」
先にコーヒーを飲んでいた美都は、後からやってきた善樹に挨拶をした。
善樹はグレーのシャツに黒い綿パンツという出たちで、学生らしい格好をしている。二人が向かい合って椅子に座ると、カップルと間違えられそうだ。
「長良さん、お久しぶり」
善樹にとって、美都に会うのは気まずいだろうと思っていたのだが、そんな素ぶりはまったく見せずに笑顔を向けてくれてほっとする。実のところ、美都自身、かなり緊張していた。善樹からどう思われているのか、不安で仕方がなかったのだ。
「元気そうでよかった。何か飲む?」
「ああ、じゃあアイスティーで」
善樹が店員に飲み物を注文すると、程なくしてアイスティーが運ばれてきた。日曜日の午後ということもあり店内はそれなりに混んでいる。話をするなら手短にした方が良いだろう。
「今日は、突然呼び出してごめんね。びっくりしたでしょ」
「まあ、それなりに。でも僕も、あのインターン以来、長良さんと気まずいままだったのがちょっと嫌だったというか。また話せる機
会ができて良かったよ」
「そっか。それなら嬉しい。あのさ、単刀直入に聞くけど、この間の選考で私が内定をもらったの、知ってる?」
「いや、今知った。そうなんだ。おめでとう」
善樹は目を丸くした後、素直に祝福をしてくれた。こういう彼の優しいところが美都は好きだった。
「ありがとう。インターン生には知らされてないんだね」
「うん。面接官として審査はしたんだけど——実際に誰を選んだのかは、社員たちしか知らなくて。まああの面接自体も、岩崎部長が将来の練習にって、僕を入れてくれただけでさ。僕には何も決定権はなかった。評価シートは記入したけれど、自分には人を見定める能力なんて、ないよ」
彼の瞳が切なげに揺れる。アイスティーの氷が溶けて、カランと音を立てた。
「……そんなことないと思うけど。でもあの夏のインターンで善樹くんは、新しい自分を見つけたんだよね。それだけでも、すごく成長したと思う」
「……ありがとう」
本当は自分が、誰かのことを「成長した」だなんて言える立場ではない。まして善樹には、最後の発表の場で犯罪者だと指摘して、ある意味彼を裏切ってしまった。彼に恨まれていても仕方がない。
それなのに彼を労おうと思ったのは、あのインターンで一番自分自身について省みていたのが、善樹だと感じていたからだ。
LINEの画面を開くと、ちゃんと彼とのトーク画面のところに通知が届いている。一番上に表示されたそれを見つめて、ゆっくりとメッセージを開いた。
『長良さん、久しぶり。この間の特別選考では驚かせてごめん。
話って何かな? 僕の方は、大学が終わってインターンとバイトが休みの日ならいつでも空いています。長良さんはいつなら会えそう?』
返信の感じだと、好感触だった。善樹は美都の誘いに賛成してくれている。美都は少し考えて、『ありがとう。私の方はいつでも。善樹くんに合わせます』と返事をした。
それじゃあ明後日の日曜日に、という話になり、美都は了解と答えた。
善樹くんと、もう一度会って話ができる。
美都は、恋人に会える時のように気分が高揚していた。でもそれは、善樹のことを好きだからというわけではない。善樹への恋心は今、複雑にかたちを変えている。
それよりも、善樹には確かめたいことがある。
夏のインターンの時からずっと気になっていたこと。
明後日、それを直接聞いてみよう——。
カララン、と涼しげなベルの音が店内に響き渡る。文京区にある喫茶店で、待ち合わせをしていた善樹がやってきた。美都も善樹も自宅が同区にあるので、お互いの家からほど近い場所にある落ち着いたカフェで約束をしたのは良かったと思う。
「こんにちは」
先にコーヒーを飲んでいた美都は、後からやってきた善樹に挨拶をした。
善樹はグレーのシャツに黒い綿パンツという出たちで、学生らしい格好をしている。二人が向かい合って椅子に座ると、カップルと間違えられそうだ。
「長良さん、お久しぶり」
善樹にとって、美都に会うのは気まずいだろうと思っていたのだが、そんな素ぶりはまったく見せずに笑顔を向けてくれてほっとする。実のところ、美都自身、かなり緊張していた。善樹からどう思われているのか、不安で仕方がなかったのだ。
「元気そうでよかった。何か飲む?」
「ああ、じゃあアイスティーで」
善樹が店員に飲み物を注文すると、程なくしてアイスティーが運ばれてきた。日曜日の午後ということもあり店内はそれなりに混んでいる。話をするなら手短にした方が良いだろう。
「今日は、突然呼び出してごめんね。びっくりしたでしょ」
「まあ、それなりに。でも僕も、あのインターン以来、長良さんと気まずいままだったのがちょっと嫌だったというか。また話せる機
会ができて良かったよ」
「そっか。それなら嬉しい。あのさ、単刀直入に聞くけど、この間の選考で私が内定をもらったの、知ってる?」
「いや、今知った。そうなんだ。おめでとう」
善樹は目を丸くした後、素直に祝福をしてくれた。こういう彼の優しいところが美都は好きだった。
「ありがとう。インターン生には知らされてないんだね」
「うん。面接官として審査はしたんだけど——実際に誰を選んだのかは、社員たちしか知らなくて。まああの面接自体も、岩崎部長が将来の練習にって、僕を入れてくれただけでさ。僕には何も決定権はなかった。評価シートは記入したけれど、自分には人を見定める能力なんて、ないよ」
彼の瞳が切なげに揺れる。アイスティーの氷が溶けて、カランと音を立てた。
「……そんなことないと思うけど。でもあの夏のインターンで善樹くんは、新しい自分を見つけたんだよね。それだけでも、すごく成長したと思う」
「……ありがとう」
本当は自分が、誰かのことを「成長した」だなんて言える立場ではない。まして善樹には、最後の発表の場で犯罪者だと指摘して、ある意味彼を裏切ってしまった。彼に恨まれていても仕方がない。
それなのに彼を労おうと思ったのは、あのインターンで一番自分自身について省みていたのが、善樹だと感じていたからだ。