一日目:八月二十日 十二時四十分
東京から熱海まで新幹線で約四十五分。あっという間に熱海駅にたどり着くと、そこからは徒歩で会場である『温泉旅館はまや』に向かった。二十分ほど歩いたので、途中でタクシーでも使えばよかったかと後悔する。気温は午前中ですでに三十三度を回っていて、目的地までできるだけ日陰を歩いてきたけれど、それでもシャツは汗でぐっしょりだ。
『温泉旅館はまや』の二階の大広間前で受付を済ませると、そのまま会場である大広間に入る。受付の際に、善樹はDと書かれた札を渡された。グループ分けの記号だろう。
「風磨、お前は何グループだ?」
「ん、俺も同じ」
どうやら風磨も善樹と同じDグループらしい。双子で同じグループにされたのは、何か意図があるのだろうか。普通なら違うグループにされる気がする。
「俺、ちょっとトイレ」
「ああ、分かった」
午後十二時五十五分、風磨が用を足しに消えていった。ほとんどの学生が席についている中、善樹は一人でDグループが並んでいる列に移動する。広間には机や椅子が一切置かれておらず、畳の上に学生たちがひしめき合って座っていた。
多くの学生がいるが、誰も何も言葉を発さない。ほぼ全員が初対面で、緊張しているのだろう。善樹にもその気持ちはよく分かる。静かに定位置に座り、インターンが開始するのを待った。
午後一時になっても善樹のそばに風磨は現れなかった。何やってんだあいつ、と呆れながらも風磨のことだから仕方ないかと諦める。せめて悪目立ちする行動はしないでほしいと思う。
会場の前方にスーツを着た三十代ぐらいの男性が現れた。スーツといってもワイシャツは適度に上のボタンが外され、中から覗くTシャツは水色だった。服装に関しては正直かなり規定が緩い。会場にいる学生たちの中にもきちんとワイシャツを着ている者もいれば、善樹と同じようにラフなシャツとパンツを着ている者もいた。どちらかといえば、後者の方が多い。案内メールに『動きやすい格好で問題ない』と書かれていたからだろう。
「皆さんこんにちは。株式会社RESTARTの人事部長、岩崎優希と申します。以後、お見知り置きを」
明らかに三十代という年齢で人事部長と名乗る彼の自己紹介に、会場が一瞬ざわついた。
「さて、今日からいよいよ弊社の宿泊型インターンが始まります。本来なら最初に会社紹介を——というところですが、会社紹介はあえて明日の夕方に時間をとることにしています。ここでは、弊社に対する先入観や余計な知識なく、皆さんに熱い議論を繰り広げてほしいからです」
岩崎の一言で、集まっていた学生の熱気が一段階上がったような気がする。善樹自身、当然のように最初に会社説明がされると思っていた。インターンの空気に慣れる意味でも議論の前のウォーミングアップを期待していたのだが、どうやら予想通りにはいかないらしい。
「皆さんは今、それぞれグループ分けされた札を持っていると思います。ちょうど、グループごとに並んでくれていますね。今回のインターンではそのグループごとに議論を行ってもらう予定なので、よろしくお願いします」
一列に並んでいる以上、まだ同じグループのメンバーの顔はちゃんと把握できていない。他のみんなも、グループのメンバーの顔を見たいのか、頭をそわそわと動かしていた。
「それでは最初に、今回のインターンの日程表を配りたいと思います。前の人から順番に回してください」
会場の外から他の社員たちが入ってきて、前の人に書類の束を渡す。しばらくして善樹のところにも回ってきて、残りを後ろの人に渡した。
渡された紙は、まるで修学旅行の栞のようにホッチキスで止められていて、パラパラとめくってみると十ページほどページがあった。最初に日程表が現れて、その次に館内図、簡単な会社概要と、残り半分は「メモ欄」と記されている。ディスカッションをするなら確かにメモ用紙が必要だ。善樹は一ページ目の日程表を確認した。
東京から熱海まで新幹線で約四十五分。あっという間に熱海駅にたどり着くと、そこからは徒歩で会場である『温泉旅館はまや』に向かった。二十分ほど歩いたので、途中でタクシーでも使えばよかったかと後悔する。気温は午前中ですでに三十三度を回っていて、目的地までできるだけ日陰を歩いてきたけれど、それでもシャツは汗でぐっしょりだ。
『温泉旅館はまや』の二階の大広間前で受付を済ませると、そのまま会場である大広間に入る。受付の際に、善樹はDと書かれた札を渡された。グループ分けの記号だろう。
「風磨、お前は何グループだ?」
「ん、俺も同じ」
どうやら風磨も善樹と同じDグループらしい。双子で同じグループにされたのは、何か意図があるのだろうか。普通なら違うグループにされる気がする。
「俺、ちょっとトイレ」
「ああ、分かった」
午後十二時五十五分、風磨が用を足しに消えていった。ほとんどの学生が席についている中、善樹は一人でDグループが並んでいる列に移動する。広間には机や椅子が一切置かれておらず、畳の上に学生たちがひしめき合って座っていた。
多くの学生がいるが、誰も何も言葉を発さない。ほぼ全員が初対面で、緊張しているのだろう。善樹にもその気持ちはよく分かる。静かに定位置に座り、インターンが開始するのを待った。
午後一時になっても善樹のそばに風磨は現れなかった。何やってんだあいつ、と呆れながらも風磨のことだから仕方ないかと諦める。せめて悪目立ちする行動はしないでほしいと思う。
会場の前方にスーツを着た三十代ぐらいの男性が現れた。スーツといってもワイシャツは適度に上のボタンが外され、中から覗くTシャツは水色だった。服装に関しては正直かなり規定が緩い。会場にいる学生たちの中にもきちんとワイシャツを着ている者もいれば、善樹と同じようにラフなシャツとパンツを着ている者もいた。どちらかといえば、後者の方が多い。案内メールに『動きやすい格好で問題ない』と書かれていたからだろう。
「皆さんこんにちは。株式会社RESTARTの人事部長、岩崎優希と申します。以後、お見知り置きを」
明らかに三十代という年齢で人事部長と名乗る彼の自己紹介に、会場が一瞬ざわついた。
「さて、今日からいよいよ弊社の宿泊型インターンが始まります。本来なら最初に会社紹介を——というところですが、会社紹介はあえて明日の夕方に時間をとることにしています。ここでは、弊社に対する先入観や余計な知識なく、皆さんに熱い議論を繰り広げてほしいからです」
岩崎の一言で、集まっていた学生の熱気が一段階上がったような気がする。善樹自身、当然のように最初に会社説明がされると思っていた。インターンの空気に慣れる意味でも議論の前のウォーミングアップを期待していたのだが、どうやら予想通りにはいかないらしい。
「皆さんは今、それぞれグループ分けされた札を持っていると思います。ちょうど、グループごとに並んでくれていますね。今回のインターンではそのグループごとに議論を行ってもらう予定なので、よろしくお願いします」
一列に並んでいる以上、まだ同じグループのメンバーの顔はちゃんと把握できていない。他のみんなも、グループのメンバーの顔を見たいのか、頭をそわそわと動かしていた。
「それでは最初に、今回のインターンの日程表を配りたいと思います。前の人から順番に回してください」
会場の外から他の社員たちが入ってきて、前の人に書類の束を渡す。しばらくして善樹のところにも回ってきて、残りを後ろの人に渡した。
渡された紙は、まるで修学旅行の栞のようにホッチキスで止められていて、パラパラとめくってみると十ページほどページがあった。最初に日程表が現れて、その次に館内図、簡単な会社概要と、残り半分は「メモ欄」と記されている。ディスカッションをするなら確かにメモ用紙が必要だ。善樹は一ページ目の日程表を確認した。