「あの、二人には申し訳ないんだけど……今は一条くんのことばかり話してても進まないから、他のメンバーについても考えませんか?」
このいたたまれない状況に耐えかねたのか、友里がそう提案してくれた。善樹は否定も肯定もできず、ぼうっと宙を見つめる。
僕はこれまで、他人に自分の正義を押し付けてきた。
誰もそんなこと、望んでいないのに。
「そういう坂梨さん自身はどうなの? 自分史を見る限り、なんでも一番になることが生きる原動力って感じだよね」
宗太郎が、今度は友里に矛先を向けた。メガネの奥で、彼の眼光が鋭くなる。
「まあ、そうですね。別に隠すことでもないです。私、常に一番じゃないと気が済まないんです。悪いですか?」
挑発的な宗太郎の発言に、友里の方もきっぱりと答える。この二人が味方同士だと思っていたが、そうでもないらしい。今や全員が全員のことをどう出し抜こうか考えているようだった。
「悪くないよ。でもさ、たとえばテストで一位になれなかった時に、一位だった人を羨んで、嫌がらせをしてしまったとか、いくらでも考えられるよね。ちょっと怪我させてしまったり傷つけてしまったりして犯罪になることだってあるんだし」
平然と言ってのける宗太郎が、善樹にはもはや恐ろしい怪物のように見えてならなかった。
「そんなこと、するわけないです」
「いやーどうだか。ちなみに坂梨さんはどうしてこのインターンに参加したの?」
「それは、父親が公務員で……福祉事業に関わってて、影響を受けたからです」
「なるほどねえ」
へびのように目を細めて、友里のことを舐め回すように見る宗太郎は、すでに善樹が知っている宗太郎ではなかった。誰にでも優しくて、成績が良くて、女の子にモテる。彼の人物像が、ガタガタと音を立てて崩れ始めていた。
宗太郎のいやらしい反応に、ついに友里は嫌気が差してしまったのか、それ以上反論をしなかった。善樹と同じだ。宗太郎の手にかかれば、みんな戦意が喪失していく。彼は一体何者なのかと、善樹は課題とは別の方向へ思考がもっていかれていた。
「……あのさ、さっきから不快なんだけど」
突如、聞いたことのない低い声がして善樹はぎょっとした。宗太郎の演説中に黙りこくっていた開が口を開いたのだ。そうだ。これまでの議論は開が進めてきたのに、今回の議論でいきなり宗太郎が主導権を握り始めた。開にとっては面白くなかっただろう。
「なにか、文句でも?」
遠慮をなくした宗太郎が噛み付く。開の顔には見たことのない暗い翳ができていた。善樹はごくりと生唾を飲み込む。あれは誰だ? 本当にこれまで明るく自分たちを取りまとめてくれた人なのか?
「文句——とはちょっと違う。ただ不快なんだ。林田くん、きみ、ずっと誰かの人生にいちゃもんをつけたいだけじゃないのか? 他人が自分よりも劣っていると指摘して、他のメンバーに自分が一番偉いんだという意識を植え付ける。そういうやつ、絶対クラスに一人はいたよな。自分が一番強いと思っていて、弱い者をいじめるやつ。自分では犯罪に手を染めず、他人の手を汚そうとする姑息なやつが。……俺はそういう卑怯なやつが、一番キライなんだよ」
吐き捨てるように言い放つ開の表情が、暗い翳りを帯びていて、逆にそれが彼の本心をむきだしにしていると感じた。
「ふ、言いがかりはよしてくれ。妄想でそこまで話を膨らませるやつが一番面倒だ。開って学校でいじめられてたの? 自分が弱い者だったから、そんなふうに卑屈になるんでしょ。ああ、そうか。だから自分史にも学校での出来事はほとんど書かれていないんだね」
宗太郎は臆することなく反撃した。開はまだ何か言いたそうにしていたが、「なんだと……」と言いかけた自分の声が思った以上に震えていることに気づいたからか、悔しそうに唇を噛んで口を噤んだ。
このいたたまれない状況に耐えかねたのか、友里がそう提案してくれた。善樹は否定も肯定もできず、ぼうっと宙を見つめる。
僕はこれまで、他人に自分の正義を押し付けてきた。
誰もそんなこと、望んでいないのに。
「そういう坂梨さん自身はどうなの? 自分史を見る限り、なんでも一番になることが生きる原動力って感じだよね」
宗太郎が、今度は友里に矛先を向けた。メガネの奥で、彼の眼光が鋭くなる。
「まあ、そうですね。別に隠すことでもないです。私、常に一番じゃないと気が済まないんです。悪いですか?」
挑発的な宗太郎の発言に、友里の方もきっぱりと答える。この二人が味方同士だと思っていたが、そうでもないらしい。今や全員が全員のことをどう出し抜こうか考えているようだった。
「悪くないよ。でもさ、たとえばテストで一位になれなかった時に、一位だった人を羨んで、嫌がらせをしてしまったとか、いくらでも考えられるよね。ちょっと怪我させてしまったり傷つけてしまったりして犯罪になることだってあるんだし」
平然と言ってのける宗太郎が、善樹にはもはや恐ろしい怪物のように見えてならなかった。
「そんなこと、するわけないです」
「いやーどうだか。ちなみに坂梨さんはどうしてこのインターンに参加したの?」
「それは、父親が公務員で……福祉事業に関わってて、影響を受けたからです」
「なるほどねえ」
へびのように目を細めて、友里のことを舐め回すように見る宗太郎は、すでに善樹が知っている宗太郎ではなかった。誰にでも優しくて、成績が良くて、女の子にモテる。彼の人物像が、ガタガタと音を立てて崩れ始めていた。
宗太郎のいやらしい反応に、ついに友里は嫌気が差してしまったのか、それ以上反論をしなかった。善樹と同じだ。宗太郎の手にかかれば、みんな戦意が喪失していく。彼は一体何者なのかと、善樹は課題とは別の方向へ思考がもっていかれていた。
「……あのさ、さっきから不快なんだけど」
突如、聞いたことのない低い声がして善樹はぎょっとした。宗太郎の演説中に黙りこくっていた開が口を開いたのだ。そうだ。これまでの議論は開が進めてきたのに、今回の議論でいきなり宗太郎が主導権を握り始めた。開にとっては面白くなかっただろう。
「なにか、文句でも?」
遠慮をなくした宗太郎が噛み付く。開の顔には見たことのない暗い翳ができていた。善樹はごくりと生唾を飲み込む。あれは誰だ? 本当にこれまで明るく自分たちを取りまとめてくれた人なのか?
「文句——とはちょっと違う。ただ不快なんだ。林田くん、きみ、ずっと誰かの人生にいちゃもんをつけたいだけじゃないのか? 他人が自分よりも劣っていると指摘して、他のメンバーに自分が一番偉いんだという意識を植え付ける。そういうやつ、絶対クラスに一人はいたよな。自分が一番強いと思っていて、弱い者をいじめるやつ。自分では犯罪に手を染めず、他人の手を汚そうとする姑息なやつが。……俺はそういう卑怯なやつが、一番キライなんだよ」
吐き捨てるように言い放つ開の表情が、暗い翳りを帯びていて、逆にそれが彼の本心をむきだしにしていると感じた。
「ふ、言いがかりはよしてくれ。妄想でそこまで話を膨らませるやつが一番面倒だ。開って学校でいじめられてたの? 自分が弱い者だったから、そんなふうに卑屈になるんでしょ。ああ、そうか。だから自分史にも学校での出来事はほとんど書かれていないんだね」
宗太郎は臆することなく反撃した。開はまだ何か言いたそうにしていたが、「なんだと……」と言いかけた自分の声が思った以上に震えていることに気づいたからか、悔しそうに唇を噛んで口を噤んだ。