「あ、急にごめんなさい。前からの知り合いだったから、彼について知ってることは話した方がフェアかなって思って……」
「大丈夫だよ。話して」
開が続きを促す。
「ありがとう。一条くんとは大学の一般教養の授業で一緒になって知り合ったんですけど、一時期同じカフェで働いてて。その時も、私が無事にアルバイトに採用されるようにアシストしてくれたんです。入ってからも、後輩の面倒をよく見る先輩って感じで、新人の子にはつきっきりで仕事を教えていました。私も……たくさん、教えてもらいました」
「へえ〜二人の話を聞く限り、一条くんってやっぱりすごく正義感と責任感が強いんだね」
「そんなことは……でも、二人ともありがとう」
善樹は正直ほっとしていた。知り合い二人がこれだけ善樹のことを「正義感のある人」と推してくれているので、犯罪者として指摘される可能性は低そうだ。
風磨が面白くなさそうに「ふん」と不貞腐れているような気がして、善樹は笑ってしまう。風磨は善樹が窮地に立たされることを願っているのだろうか。単に面白がっているようにも思えた。
「ところで長良さんは、イラストが好きなんだね。美大を目指してたって書いてあるけど、イラストレーターになるのが夢? このインターンにはなんで参加したの?」
宗太郎が美都の方に話題を切り替える。イラストレーターになりたいという彼女の夢は、一度だけ聞いたことがあるような気がする。でも、このインターンの自分史に書いてくるとは思っていなかった。宗太郎も疑問に思ったのか、鋭いツッコミだと思う。
「えっと、イラストレーターって言っても、たぶんそれだけじゃ食べていけないから……。普通に会社員としても働きたいんです。そう考えた時に、自分の性格的に人助けをするような会社に入るのが、性に合ってるのかなって思いました」
最初はしどろもどろしていた様子の美都だったが、話しているうちに緊張が解けたのか、淡々と自分の気持ちを主張していた。
「なるほどね。確かに、“手に職”系は、収入面で不安があるのは分かるよ」
美都の主張に最も深く頷いたのは開だった。彼も、YouTubeで活動していると言っているから、共感できるところが多いのだろう。
その後も善樹たちは、全員の書いた自分史について、気になったところを一つずつ本人に質問していった。
宗太郎の自分史は、出来事を淡々と書いているが、自分の気持ちについては詳細に記していない。その代わり、◎や△といった記号を駆使して気持ちの変化をまとめているようだった。
「この、◎の部分は嬉しかったことで、×の部分は後悔したこと?」
「まあ、そんな感じ。主にその出来事がどれだけ自分にとってプラスになったか、マイナスだったかを記号で示してみたんだ」
「パッとみて分かりやすいですね」
理知的な彼の特徴がよく表れていて、善樹は唸らされた。
開の自分史は、シンプルで文量自体少なかった。小中高校での出来事もあまり書かれていない。でも、ゲームが好きでYouTubeのゲーム実況に力を入れているということはよく伝わってきた。一方、幼稚園時代に身体が小さかったことがコンプレックスだと書いてあるところは少し気になった。
「答えたくなかったらいいんけど、このコンプレックスの部分は今はもう解消された……?」
「あ、うん。まあ今はなんとも思ってないかな。一時期友達に揶揄われたこともあったけど、もうどうでもいいやって思ってる」
「そうか」
開の表情が、いつになく固くなったのを善樹は見逃さなかった。
学校での出来事に関してほとんど何も書いていないのには、やっぱりコンプレックスが関係しているのではないか。友達にいじめられて不登校になってしまったとか——そこまで考えたが、さすがに本人には聞きづらかった。
友里の自分史は、この中で最も単純明快で分かりやすかった。
モチベーションがアップした瞬間と落ち込んだ瞬間をまとめているが、どれも勉強や部活で一番になった時、一番を逃した時、というものだ。彼女の原動力は競争に勝つことなのだろう。善樹も同じ穴の狢なので、気持ちはよく分かった。
「大丈夫だよ。話して」
開が続きを促す。
「ありがとう。一条くんとは大学の一般教養の授業で一緒になって知り合ったんですけど、一時期同じカフェで働いてて。その時も、私が無事にアルバイトに採用されるようにアシストしてくれたんです。入ってからも、後輩の面倒をよく見る先輩って感じで、新人の子にはつきっきりで仕事を教えていました。私も……たくさん、教えてもらいました」
「へえ〜二人の話を聞く限り、一条くんってやっぱりすごく正義感と責任感が強いんだね」
「そんなことは……でも、二人ともありがとう」
善樹は正直ほっとしていた。知り合い二人がこれだけ善樹のことを「正義感のある人」と推してくれているので、犯罪者として指摘される可能性は低そうだ。
風磨が面白くなさそうに「ふん」と不貞腐れているような気がして、善樹は笑ってしまう。風磨は善樹が窮地に立たされることを願っているのだろうか。単に面白がっているようにも思えた。
「ところで長良さんは、イラストが好きなんだね。美大を目指してたって書いてあるけど、イラストレーターになるのが夢? このインターンにはなんで参加したの?」
宗太郎が美都の方に話題を切り替える。イラストレーターになりたいという彼女の夢は、一度だけ聞いたことがあるような気がする。でも、このインターンの自分史に書いてくるとは思っていなかった。宗太郎も疑問に思ったのか、鋭いツッコミだと思う。
「えっと、イラストレーターって言っても、たぶんそれだけじゃ食べていけないから……。普通に会社員としても働きたいんです。そう考えた時に、自分の性格的に人助けをするような会社に入るのが、性に合ってるのかなって思いました」
最初はしどろもどろしていた様子の美都だったが、話しているうちに緊張が解けたのか、淡々と自分の気持ちを主張していた。
「なるほどね。確かに、“手に職”系は、収入面で不安があるのは分かるよ」
美都の主張に最も深く頷いたのは開だった。彼も、YouTubeで活動していると言っているから、共感できるところが多いのだろう。
その後も善樹たちは、全員の書いた自分史について、気になったところを一つずつ本人に質問していった。
宗太郎の自分史は、出来事を淡々と書いているが、自分の気持ちについては詳細に記していない。その代わり、◎や△といった記号を駆使して気持ちの変化をまとめているようだった。
「この、◎の部分は嬉しかったことで、×の部分は後悔したこと?」
「まあ、そんな感じ。主にその出来事がどれだけ自分にとってプラスになったか、マイナスだったかを記号で示してみたんだ」
「パッとみて分かりやすいですね」
理知的な彼の特徴がよく表れていて、善樹は唸らされた。
開の自分史は、シンプルで文量自体少なかった。小中高校での出来事もあまり書かれていない。でも、ゲームが好きでYouTubeのゲーム実況に力を入れているということはよく伝わってきた。一方、幼稚園時代に身体が小さかったことがコンプレックスだと書いてあるところは少し気になった。
「答えたくなかったらいいんけど、このコンプレックスの部分は今はもう解消された……?」
「あ、うん。まあ今はなんとも思ってないかな。一時期友達に揶揄われたこともあったけど、もうどうでもいいやって思ってる」
「そうか」
開の表情が、いつになく固くなったのを善樹は見逃さなかった。
学校での出来事に関してほとんど何も書いていないのには、やっぱりコンプレックスが関係しているのではないか。友達にいじめられて不登校になってしまったとか——そこまで考えたが、さすがに本人には聞きづらかった。
友里の自分史は、この中で最も単純明快で分かりやすかった。
モチベーションがアップした瞬間と落ち込んだ瞬間をまとめているが、どれも勉強や部活で一番になった時、一番を逃した時、というものだ。彼女の原動力は競争に勝つことなのだろう。善樹も同じ穴の狢なので、気持ちはよく分かった。