ざっと全員分の自分史を読み終えた善樹は、なるほど、と顎に手を当てる。「自分史」という一つの課題でも、細かい書き方に違いがあって面白い。善樹以外のみんなはまだじっとそれぞれの紙を見つめていて、読むのに時間がかかっている様子だった。

「……みんな、読み終わった?」
 開が目を点にしながら問う。どうやら文字を追うことに疲れたらしい。気持ちは分からなくもないと思う。

「はい、終わりました」

「僕も」

「私もです」

「もちろん僕も」

 全員が返事をしたところで「えっと」と、開が続ける。

「何か、特徴とか分かった?」

「はい。天海くんって、YouTuberなんですね。今知りました」

「ああ、俺? うん、そう。ゲーム実況だから女子は知らなくても当然だと思うし、まだまだチャンネル登録者数は少ないから、自慢できることでもないけど」

「いや、すごいです。私なんて、勉強しか取り柄がないですから」

 ハキハキとした口調の中に、どこか切なさが滲む友里の声。開は「そんなことないよ」とフォローしている。

「あと気になったんですけど。林田くんと一条くんは同じ高校ですよね? それから、一条くんと長良さんは同じ大学ですが、二人は知り合いですか?」

 友里の観察眼は鋭かった。それぞれの略歴を見れば明らかだが、こうしてたくさんの情報を並べられて瞬時に善樹たちが知り合いかもしれないと見抜くのはさすがだ。

「うん、そう。だよね、善樹」

「あ、ああ。僕と宗太郎は元同級生で、友達。長良さんとは——普通に、知り合い」

 美都が弾かれたような表情を浮かべて俯く。気に障るようなことを言ってしまったか……と善樹はドキリとした。

「そうなんですね。ちなみに一条くんはすごく丹念に自分史を書いてますね。弟さんのことまで。あと、文章を見てると、正義感が強い人だって伝わってきました」

 友里の口から出てきた「正義感」という言葉に、善樹の心臓が跳ねる。よく風磨に言われることだ。風磨が耳元で「ほうらね」とせせら笑う。

「……自分では分からないんだけど。確かに、間違ったことをしている人を見たら、注意せずにはいられなくなるな。昔からそうだった」

「善樹は本当に正義感が強いよ。高校の時だって、不登校になったクラスメイトを救うために、担任になんとかしてほしいって訴えに行ってたよね? 確か、不登校になった子は軽いいじめを受けていて。担任が『証拠がないから』って面倒くさそうにして取り合ってくれなかったから、校長先生にまで相談しに行ってさ。結局その子は転校しちゃったんだけど、あのエピソードは印象的だよ」

「そうなんですか。それはかなり、正義感が強いと言えますね」

 フムフム、と探偵が容疑者から証言を聞いているかのような素ぶりで友里が頷いていた。自分の高校時代のエピソードを語られて、善樹は小っ恥ずかしくなる。

「正義感で言ったら僕はさ、父親が警察官だけど、そこまで正義感は強くないかな。人間の暗い部分とか色々聞いちゃって、正義感が育たなかったというか。だから余計に、高二の時、体育で二人組になれって指示が出た時、僕が余って善樹が『三人で組んでもいいですか』って手を差し伸べてくれたのは、本当にすごいと思ったよ。ああいうタイミングで手を挙げてくれるのって、善樹だけだったから。善樹は運動会も文化祭も、みんなが嫌がる実行委員会に立候補してくれるしさ。善樹のこと、僕は尊敬してる」

 にこやかに笑って自分のことを褒めてくれる宗太郎を、善樹は唖然とした表情で見てしまった。宗太郎が、まさかそんなふうに自分のことを思ってくれていたなんて。褒められすぎてまるで女の子から告白でもされたかのような気分になった。

「あの、一条くんのことなら私も、正義感が強い人だなって思ってました」

 これまでほとんど口を開かなかった美都がぱっと手を挙げる。全員驚いた顔で彼女を見つめた。