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『日記読んだよ。あのさ、きみが僕の評価をどんどん上げてくれるのは嬉しいんだけどね、僕が元の世界に戻ったら、かなり人格違いすぎてびっくりされない? 二年生で新しく知り合った人も多いだろ? また吃音も出るかもしれないし。あ、でもそうか。もう戻ることもないかもだし、大丈夫か(笑)ここ、笑うとこだよ。ブラックジョークだよ。タチの悪い冗談はやめろって? そうだね。僕は全力で今を生きているし、全力でその日を迎えるから覚悟はできてるよ。何かの運命の間違いでもし修学旅行のその先も生きていられたら——僕はきっとクラスで大恥をかいて笑い者になる。二重人格だろって疑われそうだね。その時はきみにありったけの文句を叫ぶよ。
と、冗談はさておき。今日は日曜日だったから、美雨のお母さんがたまには出かけようって言ってくれて、『青い池』に連れてってくれたよ。地元の人はあんまり行かないのかな? 美雨のお母さんも、三年ぶりだって言ってたし。あの池、すごく綺麗だった。写真で見たのと同じ青色の池があって、思わず写真を撮りまくりました。美雨のスマホ、勝手に使ってごめん。いらない写真は削除してくれて大丈夫。『青い池』に行って、近くの道の駅で昼ごはんを食べてたらさ、なんだか修学旅行に来た気分になった。嬉しいよ。だって僕って、修学旅行の最中に事故に遭うんだろ? せっかくの旅行が台無しになるの、実はかなり残念だと思ってたから。みんなよりひと足先に観光地に来られたのは、やっぱり入れ替わった相手が美雨だったおかげだね。ありがとう!』
『四月二十三日。とうとう明日で入れ替わりが終わっちゃうね。青い池、楽しかった? 桜晴の話を聞いたら、なんだか私も久しぶりに行きたくなっちゃったよ。お母さんとデート、最近行けてないからいいな。その分私もこっちで桜晴の家族と楽しんじゃってるからおあいこか。……ううん、桜晴が家族と過ごす大切な時間を奪ってしまってるから、あおいこではないよね。
明日さ……心のどこかで、運命は変えられるんじゃないかって思ってる自分がいて。いや。変えたいって、本気で思ってる。
だから桜晴、私の選択をどうか見守っていてほしい。
最大限の愛を込めて。
私は桜晴、きみを全力で守るよ』
一週間、私たちは今まで通り——いや今まで以上に全力で入れ替わりの日々を楽しんだ。
桜晴と約束したから。
最後の一週間が終わるまで精一杯この時間を大切にしようって。
だから、悲しい気持ちを押し殺して楽しんだつもりだ。時々日記に、気持ちが溢れちゃうこともあったけれど、彼と入れ代わりが始まってから、いちばん幸せなひとときだった。
「明日、きみを守るよ」
机の前で、何度も胸に決意を秘める。
明日の朝、私は桜晴と最後の入れ替わりを果たす。
そして、修学旅行へは——行かない。
親には心配されると思うけれど、明日の午後八時まで、桜晴の部屋に引き篭もるつもりだ。
「絶対、大丈夫だよね」
修学旅行にさえ行かなければ、バスの事故に遭うことない。そうすれば桜晴の命は助かる。
私の命は、助からないかもしれないけれど——。
それでもいいと思える人に出会ってしまった。
お母さん、ごめんね。
たった一人、私が消えた世界で悲しみに暮れる母の姿を想像すると、胸が詰まって涙が溢れてきた。
私にも、大切な人ができたんだ。
お母さんと二人で過ごした時間を、宝物にしているから。
だから大丈夫。
私はもう、怖くない。
トクン、トクン、と揺れる桜晴の心臓の音を感じながら、布団に潜り込む。
どうか明日、桜晴の命を守り切れますように。
胸に抱いた決意は、いつのまにか深い眠りの中に沈んでいった。
『日記読んだよ。あのさ、きみが僕の評価をどんどん上げてくれるのは嬉しいんだけどね、僕が元の世界に戻ったら、かなり人格違いすぎてびっくりされない? 二年生で新しく知り合った人も多いだろ? また吃音も出るかもしれないし。あ、でもそうか。もう戻ることもないかもだし、大丈夫か(笑)ここ、笑うとこだよ。ブラックジョークだよ。タチの悪い冗談はやめろって? そうだね。僕は全力で今を生きているし、全力でその日を迎えるから覚悟はできてるよ。何かの運命の間違いでもし修学旅行のその先も生きていられたら——僕はきっとクラスで大恥をかいて笑い者になる。二重人格だろって疑われそうだね。その時はきみにありったけの文句を叫ぶよ。
と、冗談はさておき。今日は日曜日だったから、美雨のお母さんがたまには出かけようって言ってくれて、『青い池』に連れてってくれたよ。地元の人はあんまり行かないのかな? 美雨のお母さんも、三年ぶりだって言ってたし。あの池、すごく綺麗だった。写真で見たのと同じ青色の池があって、思わず写真を撮りまくりました。美雨のスマホ、勝手に使ってごめん。いらない写真は削除してくれて大丈夫。『青い池』に行って、近くの道の駅で昼ごはんを食べてたらさ、なんだか修学旅行に来た気分になった。嬉しいよ。だって僕って、修学旅行の最中に事故に遭うんだろ? せっかくの旅行が台無しになるの、実はかなり残念だと思ってたから。みんなよりひと足先に観光地に来られたのは、やっぱり入れ替わった相手が美雨だったおかげだね。ありがとう!』
『四月二十三日。とうとう明日で入れ替わりが終わっちゃうね。青い池、楽しかった? 桜晴の話を聞いたら、なんだか私も久しぶりに行きたくなっちゃったよ。お母さんとデート、最近行けてないからいいな。その分私もこっちで桜晴の家族と楽しんじゃってるからおあいこか。……ううん、桜晴が家族と過ごす大切な時間を奪ってしまってるから、あおいこではないよね。
明日さ……心のどこかで、運命は変えられるんじゃないかって思ってる自分がいて。いや。変えたいって、本気で思ってる。
だから桜晴、私の選択をどうか見守っていてほしい。
最大限の愛を込めて。
私は桜晴、きみを全力で守るよ』
一週間、私たちは今まで通り——いや今まで以上に全力で入れ替わりの日々を楽しんだ。
桜晴と約束したから。
最後の一週間が終わるまで精一杯この時間を大切にしようって。
だから、悲しい気持ちを押し殺して楽しんだつもりだ。時々日記に、気持ちが溢れちゃうこともあったけれど、彼と入れ代わりが始まってから、いちばん幸せなひとときだった。
「明日、きみを守るよ」
机の前で、何度も胸に決意を秘める。
明日の朝、私は桜晴と最後の入れ替わりを果たす。
そして、修学旅行へは——行かない。
親には心配されると思うけれど、明日の午後八時まで、桜晴の部屋に引き篭もるつもりだ。
「絶対、大丈夫だよね」
修学旅行にさえ行かなければ、バスの事故に遭うことない。そうすれば桜晴の命は助かる。
私の命は、助からないかもしれないけれど——。
それでもいいと思える人に出会ってしまった。
お母さん、ごめんね。
たった一人、私が消えた世界で悲しみに暮れる母の姿を想像すると、胸が詰まって涙が溢れてきた。
私にも、大切な人ができたんだ。
お母さんと二人で過ごした時間を、宝物にしているから。
だから大丈夫。
私はもう、怖くない。
トクン、トクン、と揺れる桜晴の心臓の音を感じながら、布団に潜り込む。
どうか明日、桜晴の命を守り切れますように。
胸に抱いた決意は、いつのまにか深い眠りの中に沈んでいった。