『びっくり。僕の志望大学適当に答えちゃったの? きみ、よくそんな大胆なことができるね。東京の有名私立大学だったら軒並み偏差値高いから僕には絶対無理だって! 夜、自分の世界に戻ったら訂正しておくよ……。
 ここ数日さ、学校で空き時間にずっと小説のことを考えてるんだ。なんとしてでも今書いてる小説を完成させたくて。実は、自分の世界に戻ってから夜中まで書いてるから、僕の身体は相当寝不足だろ? 申し訳ないと思うけど、ちょっと頑張らせてほしい。絶対に、残りの時間で小説を書き終えるからさ。そしたら美雨、僕の小説を読んでくれるかな? なんてね。恥ずかしいから、あんまり自分の口からは言えないけど。でも、読んでくれたら嬉しいと思う』


『小説、書き進めてるんだ。絶対読むに決まってるじゃん! ここ最近、確かに身体がだるいな〜って思ってたけど、そういうことだったんだね。私の方は大丈夫! 時々授業中に居眠りして怒られることもあるけど。きみは私と違って優等生じゃないから、怒られても不審がられないよ(笑)桜晴の小説、すごく楽しみだなあ。私の好みに合ってる自信があるよ。身体を壊さない程度に、最後まで頑張ってください。
 ああ、修学旅行はあと四日かあ。なんだかすごくドキドキして、眠れないことが多いんだ。桜晴が頑張ってるのに、自分だけ情けないよね。私はもっと桜晴と一緒にこうして日記のやりとりをしていたいからさ、どうしても考えちゃう。奇跡が起こってこの先どこかで二人が出会えますようにって、願掛けしながら目を瞑るの。そしたら、夢で桜晴に会えてすごく嬉しかった。……ああ、恥ずかしいね、こんな話。でも今だけは、素直になりたいよ。桜晴に、会いたい』



『僕も、美雨に会いたい。何かの運命が違っていたら会えたのかも、と思うと、すごく切なくなる時がある。今はね、会いたいと思ってくれることがたまらなく嬉しいんだ。僕も、こんなこと言う人間じゃなかったんだけど。美雨に会ってから、すごく素直になれてるような気がする。
今日は美雨の世界では土曜日で、何して過ごそうか迷ってたんだけど、美雨のお母さんに連れられて、お墓参りに行きました。お父さんの命日だったんだね。そんな日にまで入れ替わってしまって、なんだか申し訳なかったな。でも、美雨のお父さんと話すことができて良かったよ。お墓、すごく綺麗にしてあって、美雨と美雨のお母さんがどれだけお父さんのことを愛していたか、伝わってきた。
……僕の人生に、そういう瞬間があったかなって、自分を顧みずにはいられなかったよ。自分に期待しない両親のことを、僕はどこか冷めた気持ちで見ていたのかもしれない。今日、家に帰ったら両親や秋真との残りの時間も大切にしようって思えた。そのことに気づかせてくれたのもやっぱりきみだよ。ありがとう』


『お墓参り、私の代わりに行ってくれてありがとう。もう十一年も経つんだ。お父さんがいない生活に慣れちゃってるけど、やっぱりお父さんが今もいてくれたら……って思うこともあるよ。桜晴の家族だって、桜晴がもしいなくなったら同じこと思うよね。ごめん、感傷的にならないように気をつけてるのに、つい考えちゃうんだ。桜晴の言うとおり、私も桜晴としての最後の一週間を、全力で生きるよ。
 私の方は今日学校で、修学旅行の計画を立てました。グループに分かれて自由行動で行きたいところを出し合って、どう回るか決めるやつ。私、北海道には詳しいでしょ? 一人だけ場所とか距離感とかよく知ってるから、大活躍でした! 友達には北海道旅行には何度か行ったことがあるからって適当に嘘ついたけど、絶対不自然だったよあれ(笑)先生からも、鳴海はやけに詳しいなって感心されちゃった。へへ、きみの評判を私がどんどん上げていくね? いいでしょ、入れ替わった甲斐があって。これからもきみの名誉は私が守る!」