*
『和湖の吹奏楽部の練習が休みだったので、瑛奈と三人で放課後に映画を見に行きました。女の子が好きそうな——きみが好きそうな青春映画で、二人ともボロボロ泣いてた。僕ももちろん感動したんだけど、二人の前で泣くのが恥ずかしくて、トイレでこっそり泣いたんだ。トイレから戻ったら、瑛奈にトイレで泣いたでしょって指摘されて焦ったよ。美雨は泣き虫なんだからすぐ分かるって笑われた。きみ、泣き虫なんだね? 新しい一面が分かって、なんかほっこりした。あ、青春映画の内容は小説に活かそうと思ってしっかり心のメモに書き留めておいたよ。抜かりないでしょ。内容は……切なくて、自分と美雨に重ねずにはいられなかったけど、それも含めて感動したんだ。
残り一週間、もっと知らないきみを知っていきたいし、瑛奈たちとの思い出も大切にしたい。きみが、僕のいなくなった世界でも寂しくないように、友達とは素敵な関係を築いていたいんだ。……なんて、きみと入れ替わる前の自分からすれば、本当にびっくりするような気持ちの変化に自分でも驚いているよ。僕は吃音で、まともに友達なんていなかったのにね。こんなふうに友達と楽しい毎日を送れるようになったのは、全部きみのおかげだ。ありがとう』
*
『今日は江川くんと、修学旅行の話をしました。彼、すごく楽しみにしてて、授業中に先生から当てられても答えられなかったんだよ。珍しくない? でもそれくらい、彼の中でもみんなの中でも来週の修学旅行が本当に大切な行事になるって思い知らされた。三年前の桜晴もきっとそうだったんだろうなって思うと、なんだか泣きそうになった。ダメだね、私。残り一週間楽しむって決めたんだから、元気出さなくちゃ!
でもさ……もし叶うなら、バスが事故に遭わない未来があればいいなって、やっぱり考えちゃう。そうなったら自分の命が助からなくなるかもしれないのに、馬鹿だよね。だけど私は、自分のためだけに誰かの命を粗末にするような人間にはなりたくないんだ』
夜、机の前で筆を置くと、なんだか暗い空気にしちゃったかな、とちょっぴり後悔する。でも今自分が抱いている感情に、嘘偽りはない。桜晴が生きている未来があればいい、と本気で願っている。私はたぶん、どうかしている。
桜晴の綴る一日は、自分が瑛奈たちと映画を見て泣いている姿を想像してしまい、笑ってしまった。恥ずかしい一面を知られてしまい、耳までカッと熱くなる。瑛奈と和湖に散々揶揄われたんだろう。うぅ。でもまあ、桜晴が楽しかったのならよかった。
どんな映画だったんだろう。小説に活かそうって書いてあるし、きっと素敵な物語だったに違いない。いいな。私も見たかった。でも、桜晴が書く小説の方が、もっと楽しみ。
日記の最後の一文は、私の胸にストレートに響いてくる。
——こんなふうに友達と楽しい毎日を送れるようになったのは、全部きみのおかげだ。ありがとう。
「違うよ。私のおかげじゃないよ。桜晴が……自分で瑛奈たちと向き合おうとしてくれたからだ」
桜晴は自分で思っているよりずっと素敵だし、もっと自信を持っていい。あなたが魅力的な人間だからこそ、瑛奈たちはずっと友達でいてくれる。
ありがとうを伝えなくちゃいけないのは、私の方だ。
『和湖の吹奏楽部の練習が休みだったので、瑛奈と三人で放課後に映画を見に行きました。女の子が好きそうな——きみが好きそうな青春映画で、二人ともボロボロ泣いてた。僕ももちろん感動したんだけど、二人の前で泣くのが恥ずかしくて、トイレでこっそり泣いたんだ。トイレから戻ったら、瑛奈にトイレで泣いたでしょって指摘されて焦ったよ。美雨は泣き虫なんだからすぐ分かるって笑われた。きみ、泣き虫なんだね? 新しい一面が分かって、なんかほっこりした。あ、青春映画の内容は小説に活かそうと思ってしっかり心のメモに書き留めておいたよ。抜かりないでしょ。内容は……切なくて、自分と美雨に重ねずにはいられなかったけど、それも含めて感動したんだ。
残り一週間、もっと知らないきみを知っていきたいし、瑛奈たちとの思い出も大切にしたい。きみが、僕のいなくなった世界でも寂しくないように、友達とは素敵な関係を築いていたいんだ。……なんて、きみと入れ替わる前の自分からすれば、本当にびっくりするような気持ちの変化に自分でも驚いているよ。僕は吃音で、まともに友達なんていなかったのにね。こんなふうに友達と楽しい毎日を送れるようになったのは、全部きみのおかげだ。ありがとう』
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『今日は江川くんと、修学旅行の話をしました。彼、すごく楽しみにしてて、授業中に先生から当てられても答えられなかったんだよ。珍しくない? でもそれくらい、彼の中でもみんなの中でも来週の修学旅行が本当に大切な行事になるって思い知らされた。三年前の桜晴もきっとそうだったんだろうなって思うと、なんだか泣きそうになった。ダメだね、私。残り一週間楽しむって決めたんだから、元気出さなくちゃ!
でもさ……もし叶うなら、バスが事故に遭わない未来があればいいなって、やっぱり考えちゃう。そうなったら自分の命が助からなくなるかもしれないのに、馬鹿だよね。だけど私は、自分のためだけに誰かの命を粗末にするような人間にはなりたくないんだ』
夜、机の前で筆を置くと、なんだか暗い空気にしちゃったかな、とちょっぴり後悔する。でも今自分が抱いている感情に、嘘偽りはない。桜晴が生きている未来があればいい、と本気で願っている。私はたぶん、どうかしている。
桜晴の綴る一日は、自分が瑛奈たちと映画を見て泣いている姿を想像してしまい、笑ってしまった。恥ずかしい一面を知られてしまい、耳までカッと熱くなる。瑛奈と和湖に散々揶揄われたんだろう。うぅ。でもまあ、桜晴が楽しかったのならよかった。
どんな映画だったんだろう。小説に活かそうって書いてあるし、きっと素敵な物語だったに違いない。いいな。私も見たかった。でも、桜晴が書く小説の方が、もっと楽しみ。
日記の最後の一文は、私の胸にストレートに響いてくる。
——こんなふうに友達と楽しい毎日を送れるようになったのは、全部きみのおかげだ。ありがとう。
「違うよ。私のおかげじゃないよ。桜晴が……自分で瑛奈たちと向き合おうとしてくれたからだ」
桜晴は自分で思っているよりずっと素敵だし、もっと自信を持っていい。あなたが魅力的な人間だからこそ、瑛奈たちはずっと友達でいてくれる。
ありがとうを伝えなくちゃいけないのは、私の方だ。