お店に着くと、僕たちはドリンクバーを頼んだ。瑛奈はいちごチョコクレープも頼んでいて、頬にチョコをつけながら満足そうにクレープを平らげた。

「あのね、美雨。実はこの前、浅田に告白したんだ」

「浅田……」

 僕はその人のことを知っていた。一年生の頃同じクラスで、瑛奈が片思いしていた浅田圭介。まだ好きだったのか、と感心すると同時に、彼に告白したという彼女の勇気には驚いた。

「うん。それでさ、振られちゃったの。だから今日はやけファミレス! 巻き込んでごめんね」

「……そうだったんだ」

 好きな人に振られてしまったのに、明るく振る舞う瑛奈を見ていると、胸が疼いた。
 瑛奈はコーラやメロンソーダなどの炭酸飲料を好きなだけガブガブと飲み干した。見ているだけで身体が冷えそうな飲みっぷりだ。僕も同じように飲んでいたけれど、瑛奈のそれには叶わない。

「浅田から、聞いたんだけど。去年の運動会の打ち上げの後、美雨に告白したんだってね。浅田、今でも美雨のことが好きなんだって言ってたよ」

 世間話の一つでもするかのように、するりととんでもないことを瑛奈が暴露した。

「え?」

 思わず素直な反応が口から漏れる。

「え? じゃないでしょ。まさか忘れたの?」

「い、いや。確かにそんなこともあったなって……ごめん」

 運動会の打ち上げの後ということは多分、僕と美雨がそれぞれの世界に戻っていった後だ。でも、美雨のノートにそんなことは書かれていなかった。わざわざ言うことでもないと思ったのだろう。

「もう、友達の好きな人なんだぞ〜? まあ、美雨が悪いわけじゃないしね。きちんと断ってくれて、むしろ嬉しかった」

「そっか……」

 事情を知らない僕は曖昧な返事をすることしかできない。でも、瑛奈がこのことでショックを受けていないのは良かったと思う。もっとも、口にしないだけで本当の心のうちは分からないのだけれど。

「美雨はいないの? 好きな人」

「へ!? いや、うん、どうだろう」

「うわ、誤魔化した! そういえばあの手紙の子はどうなったのよ。その人のこと、好きなんじゃなかったの」

「ああ、手紙、ちょうど久しぶりに昨日届いたんだけど……どう返事を書けばいいか、分からなくて」

 図らずも、今朝読んだ衝撃的な美雨のノートについて、ずっともやもやしていたことを瑛奈に吐露していた。彼女は「ほほう」と意味深に呟く。

「どんなことが書いてあったのか知らないけどさ、久しぶりに手紙が来たんなら、まだあんたと交友関係を続けたいってことじゃない」

「うん、それはそう……だと思う」

 入れ替わりのことを言えないので、やっぱり曖昧に頷いた。

「それなら、美雨が思ってることを素直にぶつけるしかないんじゃない? ていうか、ぶつけるべき! くどくど迷ってたら、いつかタイミングを失うよ。恋ってそういうもんだよ。ここぞという時に、ガツンと行けるかどうか。もうそれにかかってると言っても過言ではない」

 瑛奈の言葉には力強さがあり、僕は自然に「そうだよな」と納得させられていた。
 そうだ、そうだよ。
 僕たちの入れ替わりから、僕が美雨の心臓移植のドナーになることまで、すべて絶妙なタイミングで運命は動いていた。今、美雨に伝えたいことがあるなら、一秒だって無駄にはできない。こうしている間も、僕と美雨に残された時間は確実に減っているのだから。

「瑛奈の言う通りだね。私、ちょっと寝ぼけてたかも」

「もう、そうでしょ? 美雨は可愛いんだから、その子だって返事をもらえたら嬉しいはず!」

「……結局そこなの?」

 僕のツッコミに、瑛奈がぷっと吹き出した。二人で大笑いしながら、残りのジュースを飲み干す。瑛奈の顔はとても満足そうだった。

「今日はありがとう。きちんと相手に向き合ってみるよ」

「ううん、こちらこそありがとうね。私も浅田のこと結局まだ諦められないからさ、まだたぶん好きでいる。それでいつか吹っ切れた
ら、またお祝いしてよね」

「そのときは和湖も一緒に」

 きっとそのとき、僕はもうこの世にはいない。 
 でも、美雨が瑛奈や和湖と笑っている未来を守れるなら、僕は全力で美雨の命を救いたいと思う。
 僕の命をきみに捧げるまでの一週間が、これから始まるんだ。