目を覚まして最初に目にした光景は、知らない部屋に飾ってあった天体観測のポスターだ。混乱する頭で洗面所へと急ぎ、鏡に映った自分の顔を見て絶句する。

「誰だ……?」

 鏡に映っていたのは、僕と同い年ぐらいの知らない男の子の顔だった。
 あまりにも混乱しすぎて、数時間は部屋に引きこもっていたような気がする。時計の針は午後四時半を差していて、先ほどまで自分がいた現実と時間はほとんど変わらない。ただ、部屋の中にある家具や、机の上に投げ出された筆箱がなんだか古臭く感じられた。極め付けはゲーム機だ。僕の周りでは誰も持っていないような、分厚いゲーム機とカセットが雑多に置かれていて、目を見開く。
 ここは、どこだ……?
 僕は一体どうしてしまったんだ?
 ぐるぐると思考を繰り返すうちに時間だけがひたすら流れ、午後八時になると、目の前がブツンと真っ暗になった。まるで、セーブをせずにゲームを消してしまった時のように。
 気がつけば僕は、生命橋の上に倒れていた。

「夢……だったのかな」

 その時はそう思ったけれど、翌日の朝八時になると、僕はまた知らない男の子に乗り移っていた。そして午後八時になると、また現実へと引き戻される日々。そんなことが永遠と繰り返されていた。
 これは……ただごとではない。
 信じられないことだが、僕は今、見知らぬ少年と入れ替わっている。
 昼間は学校に行き、知らない人ばかりの教室の中で、記憶喪失のように頭を傾げる僕を、不審そうに見つめるたくさんの瞳が記憶にしみついている。

 少年としての毎日を過ごすうちに、分かったことがあった。
 僕が少年になり変わっている間、少年は僕になり変わっているということだ。僕と同じように、彼も「誰かと入れ替わりたい」と願ったそうだ。どうして分かったのかと言うと、お互いの部屋にあるノートに文字を書くことで、会話をすることができたからだ。
 僕たちは互いに近況を報告し合い、学校でボロを出さないように努めた。

 この入れ替わりの人生がいつまで続くのか分からなかったけれど、ある日突然、二人の入れ替わりは終わりを告げた。
 それは、少年が自分の過去についてノートに書き綴ってから一週間が経った日のことだ。
 少年はノートに、「小学生の頃友達にいじめられたことが原因で、学校に行けていない時期があった」と僕に打ち明けてくれた。たぶん、長い間入れ替わることで僕に心を開いてくれたんだと思う。僕の方も、少年とは同志のように感じるようになったので、自分のパーソナルな部分について、打ち明けてみたいという気持ちが生まれていた。
 その打ち明け話を聞いてちょうど一週間が経ったある日、僕たちはいつものように午後八時に元の世界へ帰った。翌日朝八時、僕は少年の家で目を覚ますはずだったのだが、なぜか自分の部屋で目覚めた。
 その翌日も、またその翌日も、彼と入れ替わることはなく。
 彼との約二ヶ月間の入れ替わり生活に終止符が打たれた。
 これが僕の経験した、初めての「入れ替わり」体験だった。