『美雨へ
 ノート、見てくれているか分からないけれど、伝えたいことがあるので書かせてください。
 美雨からの日記がなくなって、僕はずっと考えていました。美雨は、僕との入れ替わりをやめたいのかもしれないって。それでなくても、僕に言いづらい悩みがあるということは、なんとなく想像ができています。
 その上で僕は、美雨に本当のことを話してほしいと思う。
 入れ替わりをやめたい気持ちがあるなら、僕は美雨の気持ちを尊重すると思う。僕は入れ替わりを続けたいと思うけど、きみの気持ちを無視することはできないから。
 それ以外で悩みがあって、僕に言いたいことがあるなら言ってほしい。美雨が何を話しても、僕は受け入れるつもりです』
 
 書いた文章を何度も読み返して、重くはないか、これで美雨の心を動かせるのかと考える。僕が美雨なら、自分の抱えているものを相手に受け入れてほしいと思うだろう。
 美雨、僕はきみともう一度話したい。
 たった一つの願いを込めて、返事が来るまで何日も同じ内容で手紙のような日記を書き綴った。
 

 二月、慣れない北海道の冬の寒さに悪戦苦闘しながらも、学校では相変わらず瑛奈たちと楽しく過ごした。晴れた日に一面に積もった雪の上で雪合戦をしながら、好きな人のタイプを叫び合うなんて恥ずかしい遊びをした。僕は美雨を思い浮かべながら、それっぽい男の子の特徴を言い連ねた。

「美雨のタイプの子、女の子みたい!」

「そうかな!? 気のせい気のせい! こういう優しい男の子の方が好きなの」

「へえ! いやに具体的だから、本当は好きな人、いるんじゃない? 例の手紙の子でしょ!」

「ち、違うってばー!」

 切り込んだツッコミをする瑛奈に、僕は雪を投げつける。瑛奈がすっと避けたせいで代わりに後ろにいた和湖の鼻先に当たってしまい、和湖は涙目になっていた。

「二人とも、飛ばしすぎたよーっ」

 和湖が縦横無尽にたくさんの玉を投げ出したから、僕たちはきゃあきゃあ言いながら雪の上を逃げ回った。
 三人で楽しい時間を過ごしている間、やっぱり頭の片隅には美雨のことが引っかかっていて。
 明日こそ、彼女からメッセージがありますようにと、願わずにはいられなかった。


 三月になっても、まだまだ平均気温は低く、春が来る気配はなかった。
 これまで、何度美雨に本音を話してほしいと伝え続けてきただろう。ノートは一冊では足りなくなって、二冊目に突入した。彼女から返事が来ない間、僕は不安な気持ちを書きかけの小説に書き殴るようにして綴った。
 

 四月、学年が代わり、新学期が始まった。

「あ、私だけクラス離れちゃったか」

「うわー残念だね。でも二年生でも三人で遊ぼう」

 美瑛東高校でもクラス替えが行われ、僕は瑛奈と違うクラスになった。和湖とは二年生でも同じクラスでほっとする。
 また新しい人間関係を築かないとな……。
 僕は美雨とは違うから、新しい友達をつくるのには多少苦労する。でも、朗らかな美雨の性格を頭に思い浮かべて頑張って初対面の人にも話しかけてみよう、と密かに決意を固めていた。

 そして、二年生のクラスにも少しずつ慣れてきた四月十七日のこと。
 美雨からノートに返事が書かれていて、僕は我が目を疑った。
 五ヶ月ぶりの、彼女からのメッセージだった。