十二月、美雨の暮らす北海道は本格的な冬が訪れた。気温は高くても五度を上回らず、氷点下になることもザラだ。初めて経験する寒さに、身も心も震え上がっていた。

「美雨、どうしたの。考え事?」

 昼休みに瑛奈たちとお弁当を食べながら、僕は窓の外を降りゆく雪を眺めていた。お弁当の前で動かしていたはずの手が止まってしまい、食べることに集中できない。

「……ああ、ぼーっとしてた」

 和湖に指摘されて、我に返ったようにお箸を動かす。

「ここ最近ずっとそんな感じだね? 疲れてるのかな」

 こういう時、真っ先に体調のことを心配してくれる和湖はやっぱり優しい。瑛奈も瑛奈で、「なんか悩みでもあるの」とさりげに聞いてくれる。

「心配かけてごめん。大丈夫。雪見てたらすごい感傷的な気分になっちゃって」

「雪? 毎年のことじゃん。本当は何かあったんでしょ」

 瑛奈の鋭いツッコミに、僕はうう、と唸る。

「ずっとさ……ずっと、手紙でやりとりをしていた子がいるんだけど」

 気がつけば、僕の胸を巣食っている不安の種を、話し出していた。

「その子が、最近手紙をくれないんだよね。まあ、絶対送り合うって約束したわけじゃないから、単に忙しいだけなんだろうけど……」

 美雨のことを思い浮かべながら、ゆっくりと言葉を並べる。実際は手紙ではなくノートでのやり取りだが、そこは正直には話せない。
 美雨からのノートの日記が途絶えたのは、先月二十日のことだ。
 最初は忙しくて書けていないだけだと思っていた。でも、二日、三日、一週間、と白紙のノートが続くうちに、だんだんと不安な気持ちが込み上げてきたのだ。
 美雨は入れ替わりをやめたいと思っているのかもしれない。
 そう予想した僕は、美雨のノートに『やめたいなら、正直に教えてほしい』と書いて尋ねた。入れ替わりは双方の気持ちが合っていないと続けられない。もし彼女がやめたいというのなら、僕だってわがままは言っていられない。
 でも、僕の問いかけに、美雨は一度も返事をしてくれない。入れ替わりをやめたいのかそうでないのかさえ分からない状況で、僕にできることはただ一日の出来事を綴り、『何かあった?』と問い続けることだけだった。
 十日経った今日も、まだ彼女からの返事は聞けずにいた。

「美雨、手紙でやり取りなんかしてる友達がいたの!? どこの誰?」

 興味津々、といった様子で尋ねてくる瑛奈の明るさが、今の僕にはありがたかった。

「えっと、小学生の頃の友達……」

「小学生? でも美雨、小学生の頃ほとんど入院してたって言ってなかった?」

 そうか。彼女は心臓移植をした女の子だから、入院生活が長かったのは当然のことだ。

「びょ、病院で出会った友達。同じ病気で、今は治ってるんだけど、いまだに手紙交換してて」

 咄嗟についた嘘に、瑛奈も和湖も「へえ」と頷いた。良かった。一応、納得してくれたみたい。

「そっか〜。手紙が途切れちゃったのは悲しいね。でもそういう友達って憧れる」

「うんうん! この時代に手紙って素敵だよ。どれくらいの頻度でやり取りしてるの?」

「ま、毎日……」

「「毎日!?」」

 二人が一斉に驚きの声を上げる。そりゃそうか。普通、毎日手紙を送り合うなんて、よっぽどの仲じゃないとしないだろう。